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領水内における海賊・武装強盗

 

海上保安大学校教授 村上暦造

 

はじめに

最近の海賊、武装強盗について、IMOの海上安全委員会第73回報告書によれば、1984年から2000年10月末までに全世界で2017件の事件が報告されており、2000年1月から10月末の間の発生件数として、西アフリカ23件、東アフリカ15件、中南米30件、南シナ海112件、インド洋75件、マラッカ海峡58件の報告を受けたとしている。その間、9名の乗組員が殺害され、5名が行方不明、22名が傷害を受けている(1)。したがって、マラッカ海峡を含む南シナ海の海域が海賊及び武装強盗の中心であり、その海域区分で言えば、大半の犯罪行為は、国際航行に使用される海峡及び港内を含む沿岸国の領海及び内水内で発生している。数の上では、船舶が錨泊中又は停泊中に襲われ、船内の金品や備品及び乗組員の所持物が強奪される例が圧倒的に多いが、1999年10月に発生したアロンドラ・レインボー号事件のように、船舶の乗取り(hijacking)と積荷の強奪という事例も発生しており、2000年にも1隻が沈没し、2隻が乗っ取られている。国連事務総長の海洋法報告によれば、国際社会は、それが引き起こす生命に対する重大な危険と航行上及び環境上のリスクに重大な関心を有していると指摘している(2)

これらの東南アジアにおける海賊、武装強盗事件は、いずれも船体、積荷あるいは乗組員の所持物などを強奪するものであるが、一部の例外を除くと、いわゆる強盗であって、政治的動機に基づくものでもない。上記のごとく、領海及び内水内で強盗行為が行われたとしても、それだけでは「国際法上の海賊行為(piracy)」には該当せず、「船舶に対する武装強盗」(armed robbery against ships)という用語を用いて、「海賊行為」とは区別されている。沿岸国の領海及び内水内の犯罪であるかぎり、その取締りと処罰はもっぱら沿岸国(犯行地国)の責任と権限に属する行為であり、特別の国際法上の根拠がなければ、沿岸国以外の国がこれに関与することはできない。

 

 

 

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