新日韓・日中漁業協定における執行に関する問題点
関東学園大学助教授 深町公信
1. はじめに
1999年1月22日に新日韓漁業協定が発効した。また、1977年に署名されたまま発効の遅れていた新日中漁業協定も2000年6月1日に効力が発生し、さらに、中国と韓国との間でも1998年12月に新漁業協定が調印され、日本と近隣諸国間の漁業関係は新しい段階に入った。
これらの3つの新漁業協定は、いずれも国連海洋法条約に規定された排他的経済水域制度を基礎として新しい規則を規定しているが、この水域にある島の領有権問題、水域境界画定方法についての考え方の相違、および従来からの複雑な漁業関係を反映して、他の水域における海域境界画定協定や漁業協定とは若干異なる規定を含んでいる。すなわち、日韓漁業協定では、両国間の漁業に関する管轄権のおよぶ範囲を明確な境界画定によって分配している水域があるのと同時に、一種の共同規制水域である暫定水域が規定されている。また、日中漁業協定でも同様の暫定措置水域とさらに中間水域という両国漁船が許可を受けずに漁業を行うことを許す水域を設定する合意も行われた。さらに、中国と韓国の間でも、暫定措置水域と過渡水域という水域が設定されている。すなわち、3国は、島の領有権問題や水域境界画定方法についての考え方の相違を、明確な海域境界画定によって最終的に解決することが困難なため、当面の問題である漁業問題を解決するため、漁業に関してのみ暫定的な制度を樹立し、その制度を適用するための水域を設定している。
暫定水域や中間水域という制度は、少なくとも水域の名称の上からは、他に類例を見ない新しいものである。そこで、日韓、日中の新漁業協定の規定を検討することで、両協定の適用上の、特に協定の執行に関して、問題点の整理を行ってみたい。また、他の漁業協定あるいは境界画定協定の類似する制度を検討して新日韓・日中漁業協定の特徴を見ることにする。