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国際裁判所へ訴えること及び迅速な釈放を確保するための手続的保障が必要だと考えた(8)。なぜなら、外国船舶を拿捕し抑留した沿岸国(抑留国)が、保証金等の提供による供託制度自体を認めていない場合や保証金等を受領した後も釈放しない場合、あるいは抑留国が不当に高い保証金等を請求して釈放に応じない場合などが考えられるからである(9)。そこで考案されたのが、即時釈放手続である。海洋法条約第292条は、第73条2項に違反していると主張されるとき、「釈放の問題については、紛争当事者が合意する裁判所に付託することができる。抑留の時から10日以内に紛争当事者が合意しない場合には、釈放の問題については、紛争当事者が別段の合意をしない限り、抑留した国が第287条の規定によって受け入れている裁判所又は国際海洋法裁判所に付託することができる」(1項)と規定する。この規定は、過度の抑留を防ぐために、抑留国と抑留船舶の旗国の利益の均衡を図ることを目的とすると説明される(10)。ところで、実際に第287条に基づく手続の選択を行っている国は、今日までわずかに24ヶ国にすぎず、その結果、この船舶や乗組員の釈放の問題については、いわば残存的管轄権を有するITLOSが利用されることになる(11)

当初から予想されたことであるが、この即時釈放の問題が、ITLOSにおいて早くもサイガ号事件、カモコ号事件及びモンテ・コンフルコ号事件で取り上げられることになった。海洋法裁判所の山本裁判官によれば、第292条が規定するこの早期釈放制度は、「刑事裁判管轄権の行使により確保される沿岸国の法益と、航行の自由の確保についての旗国の法益との均衡をはかるための特別の手続である(12)」という性格をもつとされる。問題は、便宜置籍船に代表されるように複雑な所有・傭船関係をもつ船舶において、こうした釈放の申立は誰によってなされるかという点である。第292条は、「釈放に係る申立てについては、船舶の旗国又はこれに代わるものに限って行うことができる」(2項)と規定するにとどまる(13)。条約上、代理資格について特定の要件は規定されておらず、誰をその代理として選択するかは旗国の大幅な裁量に委ねられている(14)。この点が、後述するサイガ号事件で問題となった。もちろん、第73条2項でいう「合理的な保証金又は合理的なその他の保証」とはどの程度のものを意味するかということも、中心的な問題となる。

 

 

 

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