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「無理なく、気持よく」が基本

以上のように一般的な条件は高本数の吟者に味方しています。年中行事の大会や、コンクールといった全国規模の舞台では、高音域の人の活躍が当分は続くかもしれません。しかし吟詠の世界を地道に支えている方々(底辺という表現は好きでないのですが)、そして吟を愛してやまない皆さん、特に中・低音の音域を持つ方々には次のように申し上げたい。

吟詠(歌全般ともいえる)は歌って無理が無く、聞いて気持が良いことが一番大切です。持って生まれた自分の声で堂々とした吟を詠じていただきたい。高い声が出ないので致し方なく中・低音で…は後ろ向き思考、さきのAさんが淋しそうな顔をした心理と同じです。

「もっと高い声を出したい」と念じている人は無数にいるようで、この欄宛読者からも「どうすれば自分の本数を上げることができるか」という切実な質問が多く寄せられています。まったくできない相談とは言いきれません。人によっては、ノドにかけていた余分な力を抜くだけで1本(半音)くらい容易に上がることがあるのです。理想をいえば、専門の声のトレーナーに指導してもらうこと、それが無理なら、どうすれば力まずに高い声が出せるかいろいろと試して見ると、意外に効果があったりします。しかし無理は禁物。強い息(呼気)を声帯にぶつければ瞬間にせよ高音は出ます。しかし勢いだけで共鳴が伴わない音声は雑音に近い。そして本人はノドを痛めるか、仮声帯に頼ることになるか、いずれにしても正しい発声とはかけ離れてしまいます。

頂点を目指し英才教育を望む(音域を含めた)天分豊かな人はさて置き、そうでない大多数の愛吟家の皆さんは、早めに頭を切り替えて、今の自分を最大限に生かすことを中心に考えてください。歌謡界で、二十数年前が全盛だったフランク永井さんという歌手がいましたね。低音という自分の声を魅力あるものに仕立て上げて沢山のヒット曲を世に出しました。

吟題を選ぶ、というより内容をもう一度吟味し直すことも大事と思います。切々と、あるいはほのぼのとした情感、懐旧、別離、自然讃歌…などを表現した題材は中・低音向きといえます。その他でも特に漢詩では、内容の如何によらず高い音程で、しかも強く吟じる傾向が見られるので、それらの吟じ方自体が、果たしてこれでいいのかと、もう一度考える必要があります。

持ち味を生かした吟詠は必ず注目されることになると思います。それが、今の高音域吟士全盛の風潮に新風を吹きこむ原動力になるかもしれません。

 

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ノドをつめ、絞った発声を続けると、仮声帯力発達し、声帯を隠してしまう。長期に及ぶと結節、ポリープなどの疾患を起こしやすい。

(本誌1997年2月号、萩原昭三医学博士の寄稿より)

 

 

 

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