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VIII. 教育について

 

全国にある情緒障害児短期治療施設における教育体制は施設内の最寄りの校区の公立の小・中学校分教室(情緒障害児学級)または分校(養護学級等)を設けている。また施設内の教育現場においては、都道府県や政令指定都市の教育委員会から派遣された教員が学級を運営している。しかしながら、こどもL.E.C.センターでは現在分教室体制が整っておらず、分教室設置に向けた働きかけを行っており、分教室設置までの期間を“義務教育に準じる教育”として、スタッフの手で授業運営から学級運営・特別活動を行っている。

こどもL.E.C.センターで教育を受ける多くの児童・生徒は学校不適応状態であることが多く、長期にわたり不登校を経験してきたこども達も含まれている。このようなこども達を抱えながら、基礎学力の充実をはかり、その前提となる学習意欲を育てることや学校教育を通じての治療を行うことを目的としている。これらの目的を具体化するためにこどもL.E.C.センターでは教育プログラムを午前の部・午後の部にわけ、独自の支援を行っている。

午前の教育プログラムでは、教科教育(小学科では国語・算数・理科・社会(生活科)、中学科では国語・数学・英語・理科・社会)を展開している。児童が参加する最初の教育プログラム時に児童より、自分がどれくらいの学力を保有しているか、好きな教科・嫌いな教科、将来の進路についての聞き取り調査を行い、この聞き取り調査を経て、スタッフが一人一人の生徒・児童にあった段階の教育計画を立て、基礎学力の充実を図ります。小学科では、発見学習の充実を図り、多くの実験や観察を通じて「学ぶことに対しての楽しさ」を実感できるような授業を展開している。中学科では、地域大学からボランティアの学生の協力を得て、5人に1人の割合でスタッフや学習ボランティアが学習を指導し、わからないところを気軽に質問ができたり、わからないところを理解できるまで徹底的に学習指導を行うという、きめ細かな個別指導が行える体制を取っている。

不登校の児童・生徒の中には、教室に入る事に対して強い緊張を示す生徒・児童もいる。このようなこども達に対しては本人の状態を当面受け入れ、こどもにとってスタッフが信頼にたる人になるような接し方を行うことにより、こどもL.E.C.センターが安心でき安定した心理状態になるような場となるようにスタッフと一緒に過ごしたり、教室外で活動するなどの働きかけを行っている。

午後のプログラムでは、エンカウンター・グループ、心理劇、ネイチャーゲームなどの心理教育プログラムや工作活動、ビデオ鑑賞やお菓子作りなどの調理実習、コンピュータを使った体験学習、スポーツなどさまざまな集団での活動を行っている。このようなさまざまなプログラムを通じて、さまざまな人間関係を通して、コーピング・スキルを育成してゆくのである。「人と付き合うことは楽しい」「自分の気持ちを正直に表現したほうがいい」ということで対人的な積極性や自己表現力を持ったり、「辛くても我慢する」「苦しくてもやりとげる」という問題解決に向かう姿勢を身に付けたり「無理してがんばるよりも、自分にとって楽に生きる」という柔軟性を身に付けるのである。

学校に行かないことで、学力面の問題もさることながら、学校生活を通じて身につける社会的スキルやコーピング・スキルを獲得することができない可能性が高い。特に学童期のこどもの場合、発達段階において社会性を身につける最適期である。また、同世代との交流経験は社会性の獲得上欠かせない条件でもある。

 

 

 

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