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I. 情緒障害児短期治療施設の歴史

 

1. 情緒障害児とは

・emotionally disturbed childrenの訳。disturbedには障害の意味はなく「混乱・乱れ」の意。この用語は行政用語であり、医学的診断名や分類用語ではない。また、一般の心身障害とも異なるので、注意が必要。

 

「定義」:「情緒」とは、1]基本的な感情の動き:怒り、恐れ、嫌悪、悲しみ、驚きなど。2]行動的側面:表情、声音、泣き声など。3]生理的側面:心拍の増加、発汗、血圧の変化など。これらから構成される基本的適応行動であるとされる。「障害」・「混乱」とは、感情を適切に表出したり、抑制することができないこと。

 

2. 情緒障害児短期治療施設(以下、情短)の対象児

(昭和42年中央児童福祉審議会の意見具申)

家庭、学校、近隣での人間関係のゆがみによって、一時的に感情生活に支障をきたし、社会適応が困難になった児童。

1) 非社会的問題行動

不登校、場面緘黙、孤立、自傷行為等

2) 反社会的問題行動

反抗・乱暴、盗み・持ち出し、怠学、授業妨害等

3) 神経性習癖

チック、爪かみ、夜尿、遺尿、偏食・拒食、吃音等

*知的障害児、精神病児、自閉症児等、知能的、身体的、器質的障害により二次的に生じた情緒的問題行動を示す児童は、情短の対象から除外されている。

 

3. 情短設立と沿革

昭和30年代、子どもの自殺の増加、非行の低年令化、不登校の出現等の時代背景のもと、子どもの早期治療と健全育成を目指して設立された。

昭和35年、中央児童福祉審議会から、「児童福祉行政の刷新強化に関する意見」が出される。その中で、軽度の非行児に対する早期対応策の一環として、短期治療施設の整備の必要性が提言された。

昭和36年、児童福祉法の一部改正によって、児童福祉施設に加えられた。

「軽度1)の情緒障害を有するおおむね12歳未満の児童を、短期間2)収容し(原文のまま)、または保護者のもとから通わせて、その障害をなおすことを目的とする施設」

この時には、「軽度」・「年少」の情緒障害の治療を目的としていたので、治療期間はおおむね6ケ月程度と予測されていた。「短期」の具体的期間である。

この中で、“短期”、“軽度”の定義は現状には合わなくなっている。

注1. 当時想定していなかった現代的な問題も生じてきている。例えば、被虐待児および不登校児の増加、PTSD、家庭内暴力、いじめ、いじめられ等がそれである。

注2. 全国情緒障害児短期治療施設協議会の、平成12年度のデーターを見ると、1年6ケ月以上在所している児童の比率は52.1%を占め、6ケ月未満で退所した児童の比率は僅か9.4%に留まっている。児童の問題が複雑化・重症化していることが伺われる。1年6ケ月が分岐点と言える。

昭和37年、岡山(津島児童学院)、大阪(大阪市立児童院)、静岡(静岡県立吉原林間学園)開設。

昭和42年、中央児童福祉審議会の意見具申のなかで、施設の性格が再認識された(前出)。昭和54年、情短の運営の基準が最低設置基準の中に明記される。

 

 

 

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