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国際会議報告

 

係留浮体システムと最新ブラジル事情

(国際試験水槽会議係留浮体システム専門委員会報告)

 

正員 木下健*

 

1 まえがき

平成13年6月1日の早朝、国際試験水槽会議係留浮体システム専門委員会に出席するためサンパウロに到着した。サンパウロは2回目で前回はもう15年くらい前である。タクシーは怖いと聞いていたので怖々タクシーに乗ると、幸い日本語の通じる日系人の運転手だった。前橋に出稼ぎに行ってベアリングを作っていたという彼と世間話をしていると、30分ほどで、市内のホテルについた。シャワーをすませ、くつろいでいると、20年くらい前に東大の生研で博士の学位を取った旧知のサンパウロ大学の西本教授から電話があった。昼には今回のホストである国立科学技術研究所船舶海洋グループ長の平田氏が迎えに来ることと、当日の大学見学時に所用で同席出来ない断りの電話であった。

昔、研修のためIHIの横浜にいた事のある森下教授ともども平田氏と昼食をご馳走になり、平田氏の案内でサンパウロ大学の水槽と国立科学技術研究所の水槽を見学した。

サンパウロ大学の水槽は小さいながら、良く整備されており、卒業研究に活発に利用されているようであった。後で述べるように、石油関連の海洋構造物が活況を呈するブラジルでは、優秀な学生が多数船舶海洋工学科に集まっているそうである。先生方はすっかり代替わりしていて、昔おられた先生方は引退されていた。国立科学技術研究所の水槽の方は、さらに以前と見違えるように海洋工学関連の研究で大繁盛の様子であった。25年くらい前に当時の橘船舶部長(現サンパウロ大学教授)が先を見越して始めた海洋工学が、後を継いだ平田グループ長(以前の船舶部が船舶海洋グループと名前が変わっている。)の手により見事に花開いた感じである。

さて、ブラジルの海洋工学は今、大いに活況を呈している。それは、海底石油・ガス田の開発が近年、より深い海底に進展して、ついに1,000mを超え、2,000mを超えるようになったことによる。この深さまで視野に入れて世界有数の油田として、メキシコ湾、アフリカ西岸沖とともにブラジル沖が世界中の注目の的になっている。深海係留や海底生産システムの新規コンセプト、高分子系材料の係留索への採用、深海係留索の渦励振の実機計測等々、先進的な試みが次々とブラジルで行われている。これらの研究開発がブラジルの国策石油会社ペトロブラスと国立科学技術研究所、それとブラジル内外の大学の協力で、理論、模型実験、実機実験が総合的に計画され見事に成果をあげている。国際試験水槽会議が23期に係留浮体システム専門委員会を設けたのも、その委員にブラジルの平田氏を加えたのもこのような事情によると思われる。

 

2 係留浮体システム専門委員会

翌朝9時半より、国立科学技術研究所で今回の訪伯の目的である係留浮体システム専門委員会第2回委員会を行った。委員8名の内、委員長の筆者を含めて平田氏 (IPT, Brazil)、Krish Thiagarajan博士 (U Western Australia, Australia) の3名だけの出席であった。Jo A. Pinkster教授 (Delft U, Netherlands), Bruce. Colbourne博士 (NRC, Canada)、Jian Min Yang教授(上海交通大学、中国)、Mun-Keun Ha博士 (Samsung、韓国)、L. Crudu博士 (ICEPRONAV, Romania) の欠席は残念であった。今回、極端に出席が少なかった理由は、この分野のビジネスが今大変忙しく、寸前まで出席の予定であったが、急の案件で来られなかった例がPinkster教授、Colbourne博士、Ha博士。Yang教授は2カ月も前から申請していたのに、ビザが間に合わなかった。Crudu博士はお国の経済事情。

極度にホットな分野の技術委員会の難しさを味わった。各委員からの書類が届いているので、それをもとに23期国際試験水槽会議総会に提出する報告書について次の様な審議をおこなった。

 

*東京大学生産技術研究所

 

 

 

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