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地域医療と福祉のトピックス その35

 

「微笑みで迎える人生のフィナーレ」を目指して

茅ヶ崎駅前クリニック院長 塚本玲三

 

「散る桜、残る桜も散る桜」

この句は、幕末の志士雲井龍雄が、弱冠26歳にして処刑される時に詠んだ辞世の句と言われ、実に見事に人生のはかなさを表しています。死はすべての人に、必ずいつか訪れる人生最大で最後のイベントです。ですから、すべての人が、その人の生きざまにふさわしい尊厳ある死を迎えてほしいものです。しかし、現実はどうでしょうか? わが国においては、いまだに癌の病名告知率は4割足らずと推定されています。大半の癌患者が自分の正確な病状を知らないまま、真実が語られていないために、猜疑心の固まりとなって孤独感、絶望感を心に秘めて、心の安らぎを得ることなく、寂しくあの世へ旅立っているのではないでしょうか。たとえ進行した末期癌であったとしても、6割以上の人が事実を知ることを望んでいる現状とのギャップが、あまりにも大き過ぎます。事実を知ることによってこそ、病いのセルフ・コントロールが多少とも可能になり、QOL(生命の質)が高められ、延命効果が得られます。

また、病気の種類を問わず国民の8割が在宅で最期を迎えることを望んでいるのにもかかわらず、実際には、8割の人が病院で最期を迎えており、在宅で亡くなる方はわずか2割に過ぎません。条件さえ整えば、病院で最期を迎えることも必ずしも悪くはないでしょうが、現在のわが国の一般的な病院での人生のフィナーレは、理想から程遠いものでしょう。

 

入院と在宅のメリット・デメリット

私は20年以上前から、患者の希望にそった最期を迎えられるように、在宅医療に力を注いできました。平成12年4月に介護保険制度が開始され、同年9月には、わが国の65歳以上の高齢者比率が17%にもなり、ますます在宅医療の重要性が高まってきています。入院医療と在宅医療のメリットとデメリットについて考察し、現在、私たちが茅ヶ崎市で行っている在宅医療について紹介してみたいと思います。

 

1. 入院医療のメリットとデメリット

入院医療のメリットは、1]高度な検査や治療が可能、2]ケアや介護を家族がしなくてもよい、3]患者は、自分の病気のことを医療者にまかせておけばよい、4]多数の医療者による多角的なアプローチが可能、とあまり多いとはいえません。それに対して、デメリットは、1]患者の社会的・文化的隔離、2]患者のプライバシーの喪失、3]安静による心身の衰えの促進、4]患者の自律性と尊厳の喪失、5]十分な介護やケアが行われない、6]院内感染や医療ミスに遭遇する可能性、7]孤独な死を迎える可能性が大きい、8]死や生の存在意義を社会から隠してしまう、9]医療費が高騰する、などと大変多くあげられます。

 

2. 在宅医療のメリットとデメリット

在宅医療のメリットは、1]患者の意思、自律、尊厳の維持が可能、2]家族、友人、ペットによる愛や癒しが得られる、3]住み慣れた環境で療養できる、4]ある程度の社会的・文化的活動が可能、5]孤独感や寂しさが解消される、6]医療と福祉の連携を高める、7]死についての教育に有用である、8]患者・家族・医療者・その他関係者の心のきずなや連帯感が高められる、などきわめて多くあります。

デメリットとしては、1]検査や治療法に限界がる、2]家族の介護能力が必要、3]往診や訪問看護が必要、4]介護者に対する指導と精神的サポートが必要、などがあげられます。

これらのことを考慮すると、特別な処置や検査を必要としない場合は、入院よりも在宅医療のほうが、断然療養条件が整っていると考えられます。

 

 

 

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