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New Elder Citizens

新老人の生き方に学ぶ2]

 

健康は生涯の生きがい

大妻女子大学理事・全国家庭科教育協会会長 仙波千代

現在、我が国は男女共に世界一の長寿国になりましたが、老後を明るく元気に暮らすのに大事なことが三つあります。1]衣食住などに要する経済(貯蓄・年金)、2]医療(老人医療)、3]生きがいです。以前はすべて自己責任でしたが、現在、1]2]は国の援助がある有難い時代ですが、3]の生きがいはすべて自己責任です。老人も人によって違いはありますが誰でも若い時より体力や知力などは衰えてくるので、若い時と同じようにするのではなく、自分の長い人生経験をいかして、マイペースで出来ることを続ければ、生涯の生きがいとなります。

先年、北欧の福祉国家といわれているデンマーク、スウェーデン、ノルウエーの老人ホームや幼稚園・保育所などを訪問しました。各国とも働いている若い人は物凄い重税ですが、老後は老人ホームの個室で至れり尽くせりの世話を受け、食事も個人の健康状態に合わせた献立であり、小遣いも十分支給され、自室の食卓、椅子からカーテンの色まで好みのものを使っていました。デンマークでは、老人ホームと幼稚園を一緒にして、けんかして泣く子の涙を拭いてあげたり、砂を投げてはいけないと教えたりして手伝っていました。スウェーデンでは飛行機をチャーターし、医師や看護婦がついて、来週はベニスに旅行すると聞いて驚きましたが、老人はあまり嬉しそうな表情ではありませんでした。ノルウェーでは老人ホームの食堂は市民も利用できるので、外部の人と世間話をしながら楽しそうに食事をしていました。裁縫・手芸・編物・工作・絵画・音楽など何か一人でできる手仕事を身につけている人は、それぞれ生きがいとなっているようでした。

私は健康で、女学校・高等学校・教育委員会・文部省・女子大学などの教育に関することを種々経験したことを感謝しています。そして家庭生活こそ人間形成の大事な場であると確信して研修に励み、家庭が崩壊すれば社会や国家はどうなるであろうかと考えて、家族が心身共に健全であることを目指して活動しています。80歳を過ぎた現在も家庭生活の改善向上に関係の深い家庭経済、食生活、消費者教育などについて大蔵省、農林水産省、経済企画庁などの教育団体のご支援を頂いて、新時代にふさわしい家庭科教育ができるように、先生方の研修の世話を積極的にしています。

戦後、CIE(民間情報教育局)のルイス・ウイリアムソン両先生の家庭科指導を受けて、私は昭和26年(1951)に渡米し、ワシントンD.C.とニューヨークに続いてミズーリ州とオレゴン州で研修をしました。我が国は厳しい国際社会の中で石油一滴も石炭もなく、食料自給さえ出来ない物的資源の乏しい国で、あるのは人的資源だけですから、全国民が自己の能力を十分生かすことが大切であると痛感しました。

21世紀の日本を担う子ども達に適切な教育ができるように、全国家庭科教育協会は昭和41年(1966)から隔年に諸外国の家庭や学校などを視察し、それを参考にして日々の指導に役立てています。平成14年度から小・中・高校は5日制となり、小・中は同年度から高校は15年度から新学習指導要領が実施されますが、ここでは共に思いやりの心や自己を慎む心の教育が重要視されています。

アメリカの幼稚園で、トイレを汚した男児に、先生は皆で使う所だからと掃除をさせ、「あなたが汚したことは誰も見ていなかったので急いで逃げれば逃げられましたが“神様”は見ていましたよ」と言うと、男児はウーンと大きくうなずいて、ニコッとして元気に走って行っきました。その後、先生は戸を締めて掃除をしました。“我が国でも三ツ子の魂百まで”“雀百まで踊りは忘れぬ”といわれるように、幼い子どものしつけ教育はとても大事なことなのです。

 

 

 

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