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訪問看護ステーション中井から5]

 

いつでも入院できるということ

所長 吉村真由子

前回は、入院と在宅のどちらでも選択できるための条件の一つとして、往診ができる体制にあることについて述べさせていただきました。今回は、もう一方の条件として、いつでも入院できる体制にあることについて述べたいと思います。先日、広島で行われた「死の臨床研究会」において、「ホスピスを『片道切符』としないために〜患者・家族がホスピス入退院を考えるときの訪問看護の役割〜」というテーマで報告した内容の一部を紹介しながら、「いつでも入院できるということ」について述べたいと思います。

報告のタイトルにも使わせていただいた「片道切符」という表現は、実はご利用者のご家族から発せられた言葉です。初回の面談時に、ご利用者やご家族に対して「症状が落ち着かないときや介護でお互いに疲れてしまったときには、ホスピスヘの一時的な入院もできますよ」とお話しますと、「そういう入院の仕方もあるんですか。ホスピスって、『片道切符』だと思っていました。少しほっとしました」。あるいはまた、症状が不安定になりご家族も介護に疲れてしまったときなどに、入院について話し合う際に、「今入院すると『片道切符』になってしまうような気がして」とおっしゃるご家族もいらっしゃいました。

在宅での受け入れ体制があれば、必ずしも「片道切符」にはならないのですが、やはり病状や時期によっては(予測される余命が短ければ)、ご自宅に戻っていただくことが難しくなることもあります。

 

移動の条件

昨年度の1年間に、ピースハウスホスピスの外来患者で、かつ訪問看護ステーションの利用者のうち、ホスピスと自宅との間を2回以上移動した方が6名いらっしゃいました。これを可能にした条件とは何かということを院長と話していた際、この6名の方は、私たちの緩和ケアに関わってから予後が1ヵ月以上あったということがわかりました。この1ヵ月という期間が重要です。ホスピスでの症状コントロールは、薬の微調整をするため、最低でも10日から2週間はかかります。それから自宅でやりたいことができる期間を1週間以上保とうとするには、緩和ケアに関わってから1ヵ月以上が必要となります。それ未満ですと、退院する頃には介護面で大変な状態になっていることが多く、ご家族もご本人さえも家に帰る気力を失ってしまうことがあります。つまり入院を片道切符にしないためには、状態に合わせて場所を移動したいというご利用者自身のご希望があるかどうかを前提に、そのご希望にそうような時間がどのくらいあるのかを含めたケア計画を医師と相談することも必要となります。

 

ホスピス・緩和ケアにより早く関わるということ

キュアがこれ以上望めない段階であるときには、きちんと主治医が説明することで、患者側もより早い段階で緩和ケアに関わろうとすることが可能になります。そこで初めて病院かホスピスか、あるいは自宅かという選択肢についてひとつひとつ考え、家族と話し合って決めることが可能になるのです。

緩和ケアを選択され、またできれば自宅で過ごしたいというご利用者やご家族に対し、「(ピースハウスには)いつでも入院できますよ」とお伝えすることは、とても大きな安心感につながっています。これまでも何度となくピースハウスヘ緊急時の入院受け入れをお願いし、ご利用者やご家族から喜ばれたことで、その度に私たち自身もバックベッドがあることのありがたみを感じています。

一方で、いつでも入院できるという安心感があるからこそ、一度も入院せずにご自宅での看取りが可能になった方もいらっしゃいます。「いつでも入院できる」ということは、在宅ケアにおいて大きな力となり、ご利用者やご家族にとっての自己意思を尊重できる選択肢となっていると考えています。

ご利用者やご家族の迷いや不安に付き添いつつも、時期や状況を見ながら、ご希望に応じてホスピスとご自宅との間を行き来できるよう援助していくことが訪問看護の重要な役割の一つであると考えています。

 

 

 

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