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Seminar

10月のセミナーから

 

医療のなかの情報開示

赤林朗(京都大学大学院医学研究科)

去る10月18日、LPC健康教育サービスセンターで、赤林朗先生(京都大学教授、ピースハウスホスピスの非常勤医師)が『医療のなかの情報開示』というテーマでお話くださいました。

参加者は約40名、現役の医療関係者はごく少数でしたが、参加者のほとんどが医療情報開示に強い関心があるということでした。

まず先生から「医療に関するひどい体験、困った体験がある人は?」という問い掛けがあり、多くの人が手をあげました。「薬が9種類もでたので飲めませんといったら、調剤薬局と医師の調整がむずかしかった」、「転医をしたのはいいけれど、近所なので前医の前を通りにくくて回り道をしている」、「総合病院で内科と耳鼻科にかかっていて、両科の移動途中でカルテを見たら、その次から看護婦が付いて来てカルテを見させない」、「靴音高く髪をなびかせて院内を闊歩する女医は不快だ」。最初はあまり深刻でない話からじょじょに「検査数値に対する明確な説明がしてもらえなかった」、「転院のとき大学の系統が違うという理由で、医療情報を出してもらえなかった」など患者側からのさまざま体験が発言されました。

それを受けて赤林先生は、患者さんにもいろいろあって、おおよその説明でいい人から、詳細な説明を要求する方まであるので、患者と医師とのコミュニケーションは実にむずかしいというお話からはじまりました。

 

カルテ開示の認知度は

以下は赤林先生の講座の要点です。まず、厚生省の資料(カルテ等の診察情報の活用に関する検討会報告書)の「診療情報の提供の基本的考え方」について説明がありました。診療情報提供の目的は、1]医療従事者と患者の信頼関係の強化、2]情報の共有化により医療の質を高める、3]個人情報の自己コントロール、の3つであり、これからすべてのガイドラインができています。

都立病院におけるカルテ開示、医師会の取り組みなどの参考資料によると、情報開示の申請は少なく、昨年11月にカルテ開示を始めた都立病院(計14病院)の開示状況は、今年6月末までの8カ月間でトータル78件にとどまっています。また埼玉医科大学の資料でも1年間で数件でした。

しかし、ここに1つの問題点が感じられます。このセミナーに集まった方のほとんどが情報開示に強い関心を示されており、また多くの方が都内在住であるにもかかわらず、都立病院で要求すればカルテを開示するということを、ほとんどの人が知りませんでした。このようにカルテ開示ができるということを知らない、またはやり方が分からないというのが実状なのではないでしょうか。

 

問われる個人の人生観

では世界各国においては、医療情報の開示を法制化するという動きがどのようにあるかというと、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどそれぞれ法制化されてはいます。しかしそこには問題もあって、医者が過度に防衛的になるとか、インフォームド・コンセントを実行しても金にならないという各国の事情もあり、権利があれどもサービスなしといった状況もあるようです。

日本でも厚生省は法制化しようと動いてはいますが、医師会は反対しています。しかし、医療情報に限らず、情報開示の問題は、われわれ市民レベルで決めていかなければならないことだと思います。

情報開示で何が問題になるかということと、何を知りたいのかということを明確化する必要があります。そしてその情報をどこまで医療従事者は患者さんと共有しなければならないか、またその理由をはっきりさせることが必要です。

皆さんは自分の病気の治癒率、自分が受ける手術の成功率を知りたいですか、入院するとき死亡率を知りたいですか。

 

 

 

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