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アメリカ・カナダツアー報告3]

医療の現場から

 

3つの気づき

-医師の立場から-

 

Computerized Pain Report ITとは

これはシアトルのウィルキィ女史が研究開発中の痛みの評価のための小型コンピュータシステムです。

本来、痛みは本人にしか分からないもので、痛みを正確に評価することが治療の基本となります。しかしこのシステムは、ことばで説明しにくい複雑にからんだ問題が整理できる点、そして問診にありがちな人為的に歪曲された訴えが避けられるという点でも優れていると思いました。

痛みに関する質問と答えがスクリーンに出てくると、患者は該当する答えを選びタッチします。答えの選択肢は痛みの持続時間、内容、痛みの場所および不安や苛立ち、さらに痛みのコントロールに満足しているかなど多岐にわたります。質問はスクリーン上の文字と、コミカルな音声のガイドによってなされ、患者は約15分間、リラックスかつ冷静に自分の痛みについてセルフレポートすることになります。情報は処理されて1枚のレポートとして印刷され、患者本人にも渡されますし、患者に関わるすべてのスタッフに共有され、痛みのコントロールが検討されます。

 

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熱心に聞き入る見学者、一番右が鶴先生

 

バイオエシックスとヘルスサービス

プロビデンスホスピスからいただいた厚さ7cmのバインダーの中には、ホスピスの組織図にはじまり、理念、入院適応の条件、リビングウィル、治療指針、グリーフケアおよびボランティアなどについての詳細が記載されていました。とくに痛みの評価、治療に対しては、国および州の機関によって詳細に規定されています。たとえばマニュアル化された図表に従って選択肢をたどると、放射線療法、神経ブロック、または鎮痛剤などの指示が得られるといった具合です。つまりホスピスにおける治療方針の決定には医師の裁量のみならず、現場の多くの経験に基づいて作られたマニュアルがより重要な意味をもつようです。これは、アメリカにおけるバイオエシックス(新しい生命倫理学)の流れに伴うインフォームド・コンセント、リビング・ウィルの尊重など、医師と患者の基本的な関係を示しているのだと思います。反面マニュアル化することは、患者さんひとり一人がすべて違う個人であると考えると、抵抗も感じてしまいます。しかし、チーム医療を実践する上では、スタッフが多いほど共同認識を持ちづらく、認識の統一のためには、このようなシステムの構築が必要だと思われます。

フレーバー医師によれば、近年アメリカにおいては、ヘルスサービスという概念が定着しつつあるといいます。これは家庭医と病院やホスピス、健康維持や予防医学の教育機関や研究所などがヘルスサービスという大きな傘の下に入り、医者やナース、ソーシャルワーカー、種々のセラピスト、その他多くの職種の人がチームを組んで連携して働くというものです。日本では慢性的なマンパワーの不足がありますが、この点でも学ぶべきことが多いのではないでしようか。

 

 

 

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