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Seminar

9月のセミナーから

国際フォーラムを終えて

 

海外招聘講師

Andrea Baumann (McMaster University)

Elizabeth Underwood (McMaster University)

 

早期退院患者ケアのマネージメントに必要とされる技術とその教育

 

恒例の夏のセミナーが9月2・3日、聖路加看護大学講堂にて開催されました。今回のフォーラムは、聖路加看護大学教授小山眞利子先生の全面的なご協力を得て企画がすすめられました。高齢化や増え続ける慢性疾患は国の財政を圧迫し、増大する医療費をいかに節減するかが重要課題となっています。この問題を解決する1つの方策として、欧米各国では入院患者の早期退院を実現させています。そして、このことはまたQOL(生活の質)をも向上させることができるという考え方でもあるからです。今回は、いち早くこの問題に取り組んでいるカナダから2人の講師をお招きし、日本の現状とあわせてご紹介いたしました。

 

カナダの両講師に学ぶ

マックマスター大学からお招きした2人の講師、バウマン看護学部長、アンダーウッド看護学部教授は、詳細な研究データを基にご発言くださいました。

初日はまず社会や経済の変動にあわせたヘルスケアの変遷について報告され、次に早期退院における問題因子として、患者の心理的側面、家族構造の変革(核家族化、労働者家族)における介護者の問題、コミュニティの問題、患者家族への教育、退院計画のフォローアップ等々考えられるあらゆる因子を分析し、その結果を報告されました。

「患者の早期退院における問題で重要なのは、患者や家族の不安要素をどれだけ取り除いてあげられるかということです。患者はまだ自分の健康について不安な状態にありますし、酸素吸入などの医療装具をつけたまま退院する場合には、本当に在宅でやっていけるのか、緊急時の対応はどうしたらいいのか不安に感じています。医療者は退院前に患者や家族の精神的、技術的教育をすることによって、これらの不安を補うことが必要です。また核家族化がすすみ、家庭における介護者の確保も困難になっています。介護者が労働者家族の場合は、経済的なダメージもあります。退院後の在宅ケアを成功させるためには、退院が決まってから退院後の計画をたてるのではなく、入院する前から退院後のリスクを検討し、そのことをふまえた計画をたてておくことが必要だと考えます」と話されました。

2日目はより具体的にアセスメント・フォームの提示、退院後の療養計画をたてる専門職者ディスチャージプランナーの活用、在宅ケアを支えるコミュニティの政府援助と基盤整備、また病院へ要望の提出など問題解決の方策を示されました。また家族の将来のヘルスケアシステム像として、個人のニーズや地域のニーズにあわせて、在宅を支える施設がフレキシブルに医療のデザインを変えていく柔軟さが必要であると話されました。

 

日本の現状から

聖路加国際病院企画室 渡辺明良

渡辺講師は『日本における在院日数と病院経営および行政の動向』をテーマにご発言くださいました。日本でも1986年をピークに平均在院日数は減りつつあります。しかし、アメリカの4.1日、イギリス4.5日、ドイツの9.6日に比べても日本は13.2日、算定式の違いや急性期病床と慢性期病床の区別がないなどの理由もあげられますが、在院日数の長さが目立ちます。行政は病院機能の分化、病床数の是正、また診療報酬制度を取り入れるなど医療費を抑える方策に動いており、将来的にはますます在院日数の短縮が進むことと思います。

在院日数を短くするポイントとして、病院側は経営方針の再構築と意識改革、また在宅においては地域の医療機関の連携とケア施設の充実があげられると話されました。

 

あおぞら診療所 和田忠志

和田講師は『日本における在宅医療の現状』についてお話しくださいました。病院側からすればADL(日常生活動作)がよい患者の退院援助は比較的容易です。

 

 

 

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