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リフレッシュ講演

人の思いを受け止める

 

遠藤ふき子

(NHKアナウンサー)

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去る2月16日、LPC健康教育サービスセンターに、NHK・ラジオ深夜便(月曜日担当)のアナウンサー遠藤ふき子さんをお招きして、セミナーを開催いたしました。

ラジオ深夜便は、中高年に幅広い支持を得ている番組ですが、遠藤さんはその番組の中で『母を語る』というコーナーを企画され、好評を得ています。このコーナーができあがるまでのエピソードと、番組を通して培われた遠藤さんの思いをお話しくださいました。

 

『母を語る』コーナーができあがるまで

遠藤さんは9歳でお父様を亡くされ、母子一人で育ちました。1966年NHKへ入局、結婚、出産後も母親の協力を得て、当時としては珍しい職業婦人として活躍されていました。ところが、入局23年目に夫のドイツ赴任の話が持ち上がり、仕事をとるか家族をとるか悩んだすえにNHKを退社、家族そろってドイツへ移住することとなりました。

言葉の通じない、生活習慣も異なるドイツで、はじめて体験した専業主婦の生活は、日増しに焦燥感にかられていくものだったとおっしゃいます。しかし、日々の体験を記録し、いつかこれを生かそうという前向きな姿勢に転じたときから、貴重な体験の日々へと変わっていったそうです。

3年間の滞在を経て帰国後は、高校生と中学生になった子供たちの学業の問題に直面しました。「ドイツなんか行かなければよかった」という子供たちのことばに、親としての選択は間違っていたのか自問自答し、だだ子供を見守るしかなかったとおっしゃいます。

その頃、ラジオ深夜便のアナウンサーとしての仕事の話が舞い込みました。家族と仕事の狭間で悩みながらも、いつしか、仕事を辞めて生じた問題は、仕事を通して解決するしかないと考えるようになっていきました。

番組を担当するようになり、多くの人たちとの触れあいの中から、いままでにない広い視野を得られたといいます。自分が今直面している問題も、同じ体験を持つ人の話を聞くことで解決が得られるのではないか。さまざまな母親の生き方を通して、自分だけの体験では補いきれない何かが見えてくるのではないか。そんな思いに至った時、『母を語る』という企画が自然と生まれてきたそうです。

 

仕事を続けて得られたもの

『母を語る』コーナーは好評を得て、現在5年目を迎えています。遠藤さんはこのコーナーでインタビューした方たちの中から、何人かのエピソードをご紹介くださいました(詳しくはNHK出版・ラジオ深夜便『母を語る』遠藤ふき子編が出版されています)。

番組には、「先週のNさんのお便りを聞いて、自分だけが辛いのではないと励まされた思いがしました」という手紙がよく届くそうです。一人で悩み続けている方が、見ず知らずの同じような体験をもつ方のことばに、自分だけが辛いのではないと励まされるたびに、この番組を続けていてよかったと思われるそうです。

遠藤さんは、手紙を寄せてくれるひとり一人の思い、そして手紙を出しはしなくても、この番組を聞いてくれる多くの人の思いを受け止める、受け止めようとすることで、自分自身が少しずつ大きくなっていくような気がするとおっしゃいます。お手紙の中には厳しいおしかりもあり、少し前までは、そういう手紙を受け取ると一日中暗い気分で過ごしていたそうです。しかし批判は批判で受け止め、その上でこの手紙を書いてきたその時その人の思いはどういうものだったのだろうか、と考えるようになった時、いろいろな人生があるのだなということに思いがいたり、肩の力が少しずつ抜けていくのを感じたそうです。

お話の後の質疑応答でも1つ1つ誠実にお答えいただき、節目節目を常に真撃に、前向きに乗り越えてきたお人柄を感じました。

 

 

 

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