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家族がどんな対応をしているかを聞くと参考になります。在宅の痴呆の人を介護している家族は強迫的で良心的な人が多く、ですから、家に帰りたいとか、お世話になりましたなどといわれると、「ここが家ですよ」と説得しようとすることがあります。手紙の束を持ってきて宛先と同じだと説得したり、なかには土地の登記書を見せているという人もいました。毎日のことですからこれでは疲れてしまいます。その場では納得しても、5分もするとまた言い出す。結局は「いい加減にしてよ」ということになるのです。

もう一つの対応の例は、息子さん夫婦と一緒に暮らしている方で、ご主人が「家に帰る」と言い始めると、「一緒に帰りましょう」と近所を30分くらい散歩に出ます。そして、家の前に戻ると、ご主人は「ただいま」と入っていく。それで落ち着くそうです。

別の例では、大学の先生だった人が、これから講義だといって鞄を持って出ていこうとする。それに対してお嫁さんは日曜日の日付の新聞を示して、「今日は日曜日ですよ」と言うと、「そうか」と言って部屋へ戻っていく。

私は病院で「お世話になりました。家に帰ります」と挨拶に来る人には、「さっき、迎えにくると連絡があったので、もうちょっと待って」とか、「もう夜だから、明日の朝にしましょう」と時間を稼ぎました。30分で落ち着くといいましたが、こういう対応がいちばん無難です。

 

3) 基本的なポイント

家族の中には「嘘をついていいのだろうか」と悩む方がいます。

私は、本人が安心するような対応がこの症状へのポイントであり、嘘をついていいのかという倫理的な視点にとらわれないほうがいいと思います。

 

 

 

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