はじめに-POSの誕生
みなさんもご存知のとおり、POS(Problem Oriented System)は、1964年、ローレンス・ウィード(L.Weed)によって提唱された医療の場における患者のための問題解決技法です。ウィードがアイルランドで診療に携わっていた当時、「診療は患者の問題を上手にリストアップするところから始めなければならない」と言い出し、彼の下で働くレジデントにプロブレム・リストを作ることを指示して、患者の問題解決に取り組みました。そしてその体験を論文にまとめてアメリカの医学雑誌『New England Journal』に投稿しました。それが1968年には『Medical Record, Medical Education and Preventive Care』という本として出版されました。
1970年、私がアメリカの心臓病学会に出かけた折、有名な心臓病学者であるハースト(J.W.Hurst)教授が「これまでは心臓病の専門医を養成するのに4年間は必要だと思っていたけれども、ウィードの方法論を取り入れれば半分以下に短縮できるのではないかといま実験しているところだ」という話をしていました。そして、その結果をやはり『New England Journal』誌に発表して、アメリカの医学教育・看護教育がウィードのPOSシステムによって展開すべきことを強くアピールしていました。私は帰国してすぐこれを聖路加国際病院の病棟でやってみようと提唱したのですが、忙しい病棟レジデントはなかなか私の提案にはのってくれませんでした。
1973年に再訪米した際、私は、ハースト教授が見事にこのシステムを大学や病院で実践しているのを見ることができました。私は、日本の医療を本当に患者中心のものにするためには、このシステムの導入が不可欠であると考え、ウィードのテキストの翻訳に着手し、つづいてハースト教授の解説書『POSの原点と応用』(医学書院)を翻訳しました。