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こころを共にする

 

何が患者さんに必要なのかといえば、それはケアということです。ケアの基本的理念は何かというと、その患者と共にいてあげるということです。「患者と共にいる」というこのことこそが必要であって、それは物理的にいるということもありますが、こころが患者と共にいるということでもあるのです。癒しということは、まず患者さんの表情を深く読みとり、それから手を握って脈をみて、点滴の具合をみるというに習慣づけられるようになっていなければなりません。そしていよいよターミナルになってバイタルサインの落ちたときには、患者の苦しみの感じ方も低下してきますから、そういうときにモルヒネや鎮静剤を投与しますと意識がますますぼんやりした状態になってしまいます。ところが、ろうそくの灯が消える前にはポッと炎が明るくなるように、いのちも消える直前には清明になりますから、そのときには薬の量を控えて、家族や愛する人とお別れができるようなタイミングをつくってあげることです。そういう別れがすんでいますと、いざ臨終のときにも家族に激しい慟哭や悲嘆の状況は起こらないのです。私はこのように言います。「いまはまだ意識がおありだから、側で手を握ってあげて、お別れを言ってください」と。「これまでいろいろとありがとう」と親しい人たちがお別れの言葉を言えるように配慮することまでもが、プロによるケアの中には入ってくるのです。

これからのターミナル・ケアのサイエンティフックな研究は、予後はどのくらいかということを推測した上で、その人の意識が戻ってくる時間を再現し、それを上手に使う方向にも発達していかなければならないと思います。

 

 

 

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