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日本語で「憐れむ」というと、何か高所から見下ろすようなニュアンスがなきにしもあらずですが、「憐れみ深い」ということは苦しみを共にできることであるわけです。漢字の「憐」という字もよく見れば「心を隣におく」と書きますし、「あわれ」という言葉も「ああ、われ!」、つまりもはや他人事ではなく、わがこと、自分のこととして受けとめ、こころふるわせるという共苦する姿が見られる表現です。

この「苦しむものと共にいてその苦しみをわがこととして受けとめる」という姿勢は聖書に通底する大切なモチーフでもあります。カトリックの作家、遠藤周作さんの多くの作品の中心的テーマでもあり、彼はスーパーマンのように強い救世主ではなく、むしろ弱々しいが私たちと共にいて「共に苦しむ神」としてのキリスト像を切なく美しく描き出しました。

その極みが十字架上のキリストのイメージです。神の子であるキリストが、人の罪を身に受けて苦しむ。苦しみを担い、苦しみを共にして、苦しみを通して人を救うという不思議な考え方がそこにあります。

 

旧約聖書の“共苦する神”

 

これはキリスト教に限ったことではなく、もともとユダヤ教の経典である旧約聖書イザヤ書53章には有名な「苦難の僕(しもべ)」と呼ばれるモチーフが描かれています。「神様が苦難を負う僕(しもべ)を私たちのもとに送られる。その人の受けた傷によってわたしたちは癒され、その人の苦しみを通してわたしたちの苦しみが軽くなり、癒される。こうしてわたしたちが自分自身を取り戻す」とあります。

 

 

 

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