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「いのち」という言葉ですが、「い」は息のことだそうです。息吹の「息」です。そして「ち」というのは霊力、いのちを支える不思議な霊力のことです。この霊力を感じるものに古代人は畏敬の念を抱いたのは当然でしょう。カミナリとは「神鳴り」のことですが、これを「いかづち」というときの「ち」、あるいは大蛇を「おろち」というときの「ち」もこの霊力と関係があるそうです。生命を支える血液は大和言葉では「ち」ですし、母親から赤ん坊へといのちを受け渡すのが「ちち」。乳飲み子の「ち」でもあります。

つまり「いのち」とは「息の霊」ということ。生命の霊力を息吹きとして吸って吐いている。その状態が「いのち」なのだというわけです。だからこそ「息している」ことが、「生きている」という「いきもの」の姿であるわけです。

ついでに「命」という漢字も見ておきましょう。この字は「生命」の命でもあるし、「命令」の命でもあります。生命と命令、いったいこの2つにはどんな共通点があるのでしょうか。

命の字の成り立ちを調べてみますと、もともとは2つの独立した漢字が合体してできたというのです。よく見ると、左下に「口」があります。それを除くと「令」という部分が残ります。そう、命令の令です。そもそも「命」とは「口で発せられた命令」という意味なのです。では、誰が命令を下すのか、です。古来、東洋の考え方では「天」です。天が「生きよと命じる」、それが「生命」であり、これを「天命」と呼び習わしています。そして、われわれに生きよと命じた天が、「はい、ご苦労さん。もうこのへんでいいよ」というときまでがわれわれの寿命です。ですから「もういいよ」という命が下った日を「命日」として記憶するわけです。

 

 

 

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