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図5.2.2-2は、水温の変化に起因する、熱力学的効果を除いても、なお他の要因によって、二酸化炭素濃度が変動していることを示している。これは4.1項(2)〜(4)で述べたような効果が複合して生じた結果であり、その要因を定量的に特定するには生物や、栄養塩類などの多くのデータが必要となるが、ここでは西経160度付近にみられる、約290ppmvの低い二酸化炭素濃度の海域(図中(B))について着目した。(A)は東経140度〜西経120度、(B)は西経162〜155度の海域を示す。(B)除く(A)の海域では、水温と規格化した二酸化炭素濃度の相関係数は0.95であり、強い負の相関が見られた。一方、(B)では、水温と規格化した二酸化炭素濃度の相関係数は0.33であり、(A)と比べて相関は弱く、水温がほとんど変化していないにもかかわらず、規格化した二酸化炭素濃度は、他の海域(A)のデータから約140ppmv減少している。水温の変化を伴わずにこのように大きな減少が見られることから、西経160度付近にみられる約290ppmvの低い二酸化炭素濃度は、生物活動の光合成による二酸化炭素濃度の減少海域、あるいは異なった起源・挙動を示す水塊を観測したものと推察される。

 

5.3 大気と海洋の二酸化炭素の濃度差

 

人類の化石燃料の使用により、図5.1.2-1で示した様に大気中の二酸化炭素濃度は年々高くなっている。その発生する二酸化炭素が海洋等にすべて吸収されれば大気中の二酸化炭素の増加はないのであるが、観測の結果は大気中の二酸化炭素の増加を示している。

二酸化炭素は大気と海洋間で交換されているので、大気から海洋へ、または海洋から大気への移動が生じ、この移動量は、大気中と海水中の二酸化炭素濃度の差(海水−大気)に依存する(移動量は二酸化炭素濃度差と風速から算出されるが、本報告では移動量の定量的取り扱いは行わない)。

図5.3-1に大気中と海水中の二酸化炭素の濃度差を航海ごとに示す。図は各航海の航路上に、大気中と海水中の二酸化炭素の濃度差を緯度経度1度毎に平均した値で示してあり、青色は海水中の二酸化炭素濃度が大気中のそれより低い海域で、大気中の二酸化炭素が海洋に吸収されていることを、赤色は海水中二酸化炭素濃度が大気中の二酸化炭素濃度より高い海域であり、海洋から二酸化炭素が放出されていることを表している。

本観測海域では、8月および10月を除き、年間を通じて東経140〜西経125度付近の広い範囲で海洋中の二酸化炭素濃度が大気中の二酸化炭素濃度より低く、海洋は二酸化炭素を吸収していることが示された。

これとは逆に8月には、東経160度付近、および西経160度付近の一部を除き、広い範囲で海洋中の二酸化炭素濃度が大気中の二酸化炭素濃度より高く、海洋は二酸化炭素を放出していることが示された。

10月には、東経140〜西経155度の範囲で海洋中の二酸化炭素濃度が大気中の二酸化炭素濃度より低く、海洋は二酸化炭素を吸収し、西経155〜西経120度までの範囲で海洋中の二酸化炭素濃度が大気中の二酸化炭素濃度より高く、海洋は二酸化炭素を放出していることが示された。

 

 

 

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