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監修にあたって

 

我が国においては、諸外国に例を見ない急速な高齢化が進展しており、2015年には国民の4人に1人が65歳以上の高齢者となる本格的な高齢社会が到来すると予想されています。また、約300万人の身体障害者が障害を持たない人と同等に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼイションの理念に基づき、障害を持たない人と同様のサービスを受けることができるよう配慮することが求められています。

このため、高齢者、身体障害者等が自立した日常生活や社会生活を営むことができる環境を整備することが急務となっています。

こうしたなか、高齢者、身体障害者、そのほか妊産婦などの公共交通横関を利用した移動の利便性及び安全性の向上の促進を図るため、平成12年5月17日に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(以下「交通バリアフリー法」という。)」が公布されました。

 

交通バリアフリー法では、駅、バスターミナル、旅客船ターミナル、航空旅客ターミナルなどの旅客施設を新たに建設する場合や、鉄道車両、バス、旅客船、航空機などの車両等を新たに導入する場合に、これら旅客施設や車両等における移動円滑化のために必要な構造及び設備に関する基準(以下「バリアフリー基準」という。)への適合を義務付けています。

 

これまで陸上施設については、各地方自治体のまちづくり条例などによりバリアフリー化のためのマニュアルが広範囲にわたって整備されてきております。

一方、旅客船については、陸上施設のようにマニュアルが整備されてこなかったこともあり、旅客船事業及び造船事業に関係する方々にバリアフリーに関する考え方が十分に浸透していない状況にあります。

旅客船のバリアフリーを促進させるためには、これら関係者の方々にバリアフリーに関する考え方を十分にご理解いただき、自主的かつ積極的に取り組んでいただくことが大切です。

 

本書は、こうした取り組みを支援するため、旅客船のバリアフリーに関する考え方について理解をより深めていただけるよう、「基本的考え方」の章において、今般の旅客船のバリアフリー基準の骨格を構築するにあたっての理念や達成目標などの基本的な考え方を解説するとともに、実際に旅客船を建造・整備する際の手引となるよう、「マニュアル」の章において、バリアフリー化すべき経路及び設備に着目し参考となる仕様や図・イラストを用いながら分かり易く解説するよう監修いたしました。

読者におかれましては、次頁からの「基本的考え方」の章を是非ご一読の上、本書を活用されることをお勧めいたします。

 

また、巻末において、いくつかの設計サンプルを紹介しておりますが、これらは今後バリアフリー基準に基づき新たに建造される旅客船に期待されるお手本ともいうべきモデルデザインを示したものではなく、あくまでも現存する旅客船の図面を基に、配置の工夫により旅客定員を極力減らさず、いかにバリアフリー化を可能とするかを試みた参考例です。

 

本書が、これからのバリアフリー旅客船の建造・整備の際の手引書として、関係事業者、設計者をはじめ、多くの方々に積極的に活用されることにより、英知を結集したすばらしいモデルデザインが考案され、国民の皆さんにとって優しい旅客船づくりが進められていくことを期待しております。

 

なお、旅客船のバリアフリー基準に関しては、義務化を想定した基準が世界にも例がないため、交通エコロジー・モビリティ財団主催により平成12年3月に「旅客船のバリアフリー化に関する基準検討会」を立ち上げ、委員として東京大学の大和裕幸教授をはじめバリアフリーに関する有識者の方々、身体障害者団体、旅客船関連事業者団体等の方々のご参加のもと、基準の基本的考え方からご議論いただき、本検討会における3回にわたる詳細な討議結果を踏まえて基準案が策定されました。

本書は、本検討会委員の皆様からいただいた貴重なご意見を参考として監修されたことを申し添えます。

 

平成12年12月

運輸省

海上技術安全局安全基準課

 

 

 

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