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提言 地球は自動車に耐えられない だからグリーン化税が必要

 

私は環境学者として、「地球はこのクルマ社会という高負担に耐えられるだろうか」という問いを発し続けてきた。世界の乗用車保有台数は5億2000万を超え、過去50年間で7倍以上になった。世界では11〜12人、先進国では2〜3人がそれぞれ1台を持つところまで普及した。先進国では飽和状態になりつつあるが、「自動車が欲しい」という究極の願望は、開発途上国でも爆発しつつある。世界各地を回っていると、もっとも驚くのは途上国のモータリゼーションである。

とくに、アジアの増加はすさまじい。中国の保有台数はこの20年間で14倍に増えて、1300万台にもなった。朝夕に通勤の自転車で埋め尽くされていた北京や上海の幹線道路はいまや自動車の大渋滞で、排ガスの臭いが終日立ち込めている。他のアジア諸国でも状況は同じだ。

いまや自動車なしには、社会や個人の生活が成り立たないところまで浸透している。だが、日常生活で自動車ほど生命や健康を脅かしているものはない。排ガスは世界の多くの都市で発電所や工場を抜いて最大の大気汚染源になった。光化学スモッグや酸性雨の被害も広がっている。大気汚染規制の優等生といわれる日本でさえ、全国で6万3000人を超える大気汚染による公害病認定患者を抱えているのだ。

世界的専門家組織である「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)、が近く発表する報告書によれば、100年後には地球全体温度は1.5度〜6.0度、海面は14〜80センチの上昇が予測されている。自動車から排出される二酸化炭素の量は、世界で年間15億トン。全排出量の20%に相当する。自動車の排ガス対策が急務である。

といっても、これだけ利便性に優れた自動車を簡単に減らすのは至難である。90年を基準にして、2010年までに6%を削減する国際公約は、日本ではかなり達成が困難視されている。だが、この公約を守るためには、1988年の排出量に押し戻せばよいのである。むろん、各産業でがんばらねばならないが、自動車を例にとれば大まかにいって保有台数を4分の1減らせばよい。

台数を減らす代わりに、省エネで総排出量を減らすことも可能だ。そのためには、自動車の排ガスを削減しなければならない。その第一歩として、グリーン化税による二酸化炭素排出削減は、現在考えられているもっとも苦痛の少ない対策であり、省エネ技術の開発競争を促進するうえでも最適と思われる。

 

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石弘之

東京大学大学院新領域創成科学研究科

環境学専攻教授

 

 

 

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