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提言 バリアフリーは自分の問題−法の制定に際して−

 

交通バリアフリー法が各方面のご尽力で成立した。まことによろこばしい。これにより、支援を必要とする人々に対し、社会として支援の計画をたて、国や自治体が資金的援助を行って実施を確実にする制度が整えられたわけである。

これまでも、たとえば駅にエレベーターが設置されるなどしてきた。大都市では、新設駅ならともかく、既存の駅で安全を期しながら工事を行うのは、技術的にも経済的にも容易なことではない。その中での事業者の努力には敬意を表したい。今回の立法で資金分担の方式が確立され、大きな機会が提供される。ぜひ活用してほしい。

もっとも、それらの施設は、交通市場の高齢化を考えるなら、乗客の要求に応じる営業政策として積極的に考えていくべきものである。規制緩和が進み、交通機関間の競争も激しくなるから、バリアフリーは社会政策で政府の問題などと消極的に構えていると、競争市場で需要の維持確保に遅れをとることは必定である。

しかし、今回の立法の画期的な点は、財政的方策よりも、バリアフリーについて社会として取り組むシステムを確立したことにある。従来の対応は、行政にせよ事業者にせよ、個別的な努力で行われてきた。そのような個々の余力や配慮に依存していては限界がある。今回、基準の設定と計画、そして財政支援というシステムが定められたことは、社会全体としてバリアフリーを位置づけ、ハード面やソフト面の整備に展望を与えるものである。

この場合に、費用負担のありかたについても、さらに合意を形成していく必要がある。国や自治体が財政援助をするにしても、それは納税者の負担に帰する。事業者の負担分は、最終的には利用者にかかる。バリアフリーの基本的な姿勢が決まったならば、次の段階として、負担の範囲や優先順位を定めることが課題となる。バリアフリーのための負担がどれほど可能か、その限られた財源をもってどの支援を優先すべきかなど、矛盾や対立もはらむ課題をつめていかねばならない。

結局のところ、バリアフリーをどのように進められるかは社会の合意の問題であり、社会の各々が、自身やわが家族に生じる自らの問題として認識することが第一歩である。

 

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藤井彌太郎

帝京大学経済学部教授

慶應義塾大学名誉教授

 

 

 

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