6. 今後の課題
前章までに述べた基礎的な調査の結果、船舶が安全な運航を行うに関し、以下の問題点が指摘された。
(1) 安全が議論されるような事故の分析によれば、危険な事象をひき起こす要因は、個々の機器の一性能の欠陥や、一操船者の過誤といった単独の要因のみによるものではない。製品の設計/製造、運航のシステム/環境、公的な所謂構造のみを規定する規格/検査など、数多く複雑に絡み合って事故の諸要因を構成している。事故は潜在危険が数々の防御の隙間をくぐり抜けて発生している。
(2) 従来の、安全方策は、個々の事故事例の主原因に対し、臨床的に行われてきた。規格への反映も同様であり、個々の機器や部品に対して個別/単独に行われてきた。また、事故の際の製品製造者に対する厳格責任、あるいは使用者のみならず第三者に対する説明責任が求められるようになり、安全に関する認識が高まりかつ変化してきた。
(3) 世界的に安全に対する認識の高まりに呼応した動きが活発である。安全のバイブル的指針であるISO/IEC Guide 51を契機として、コンピュータ、電気や機械などの世界では、製造者と使用者の双方を配慮した統合システムの安全を、各部門ごとに盛んに審議されている。その成果を踏まえ、システムの安全規格が制定発行されつつある。
(4) 船舶の世界でも、情報化/国際化の動きの中で船独自の世界から脱皮し、(3)で述べた動静を導入しつつある。IMOによるFSAでは、国際条約/規格の作成に特化して、Guide 51の流れを汲んだ総合的で合理的な安全評価を試行中である。
このような背景のもと安全を合理的に確保するための、設計/製造者や運航者が標準として用い得るような『統合船舶コントロールシステム』に関する基本的な規格・ガイドの積極的な構築が必要であると認識するに至った。
(5) そのような規格は、最新の合理的な安全評価手法を導入すべき事はもちろんである。さらに、船舶運航が、環境的、時間的制約の中で動的状況の把握・判断・指令を求められる、他機種では類をみないような複雑なマンマシンシステムにより実行されていることを十分に考慮すべきである。制限の多い環境中において、ヒューマン ファクターの負影響側面の拡大防止や機器類の機能とその使い易さには特に配慮すべきである。配慮された安全性評価の結果は設計、運航にフィードバックされ、安全の推進に貢献できると考える。
(6) 事故等が発生していないから、該当システムは安全であるといえない。ヒューマンファクターに起因する事故は90%程度であると言及されている。設計・運航段階において、潜在している事故要因は環境との関連で、いつか顕在化されるであろう。
従って、それら設計等における開発プロセス手法の妥当性とその透明性が最重要視されるようになった。事故発生時、設計等の合理的な意思決定プロセスを説明し、それを提出することが必要であると指摘されている。製品・システムの販売等においては、安全に関する技術内容はある程度ブラックボックス化されているので、その背景として証拠責任となるライフサイクルにおけるリスクアセスメントが求められる。
上述の指摘と本年度の基礎的研究内容の継続的展開を踏まえて、次諸事項の一般化を図る必要がある。