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第2章 工場管理の着眼点

 

2.1 損益分岐点の考え方

工場管理指導書中に損益分岐点の問題を入れたのは、技術者というのは、“お金”の計算に弱いとよくいわれるからである。損益計算とか、貸借対照表などというと、はじめから“サジ”を投げてしまうからである。小造船所では、根っから船が好きで、または先祖代々の家業として造船業をやっている人々が多く、そのはじめは舟大工さんであり、家内工業的な個人営業から始まっている。それだけに、その経理・会計の問題となると、企業と個人の生活費や資産とが混合されやすく、その計算も全くのドンブリ勘定で、建造した船の個々の原価は勿論、全体の収益すらはっきりしていない。

これでは企業としての本質にもとっているし、その成功の可能性も少ない。ただ、一家族が食べていけるからよいのだという程度では企業の進歩性もない。どうしても、まず会計を明白にして、少なくとも“青色申告”程度の簿記帳を作り、伝票制を設けて、金銭の出入れを明確にし経費の区分をしなければならない。特に大切なことは、事業の資産と事業主個人の資産をはっきり分離して、事業主の貸借を明白にすることである。これによって、はじめて造船所の経費がはっきりする。

経費というものは、流動的なものであるから損益図表のように簡単に表現することはむずかしいが、ある期間、即ち月とか年とかの期末期末とかで総計してみれば、自分の造船所の経費がつかめる。税務の関係もあるから、個人企業に近いところは年末で締めるのもよい。年間の変動が大きければ半期で締めてもよい。この表のよい所は企業の大まかな実態がつかめて経営規模の反省資料となり、工場管理の大きな鏡となるからである。

固定費として考えられるものにはいろいろなものがある。即ち、現在の設備と人員とで発生する費用で、生産量とは無関係なもの、すなわち、何ら仕事がなくても、店を開いているだけで必ずいる費用の総計である。例えば地代、家賃、事務員の給料、減価償却費、事務用品、通信交通費等の一般管理費、電気、ガス、水道等の定額分等が考えられる。

なお、固定資産税、保険料、常傭工員の給料(定額)は、この固定経費として考える方がよい。この分類は、原価計算の各要素を勘定科目別に固定費と変動費に分けていく。この分割の明白でないものは、過去の実績によって平均値的に出せばよい。鋼材・木材は勿論工事用の電力、酸素、アセチレン、水漲りテント用の水等を多量に使用する場合には変動費が非常に大きくなる。また下請等を大量に使用する工場は固定費が少なくてすむこともになる。固定費が少ないほど経営の基盤がつよくなるのは、指導書に見られるように、固定費はその名のごとく常に変動費にプラスされて総経費となるからである。

 

 

 

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