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7 研究成果と提言

 

7.1 研究成果

投下式SARTの研究調査において、平成元年から平成10年までの距岸別要救助海難船舶隻数の統計資料を使い、実態の解析を行った。その結果、90%は距岸12海里以内で発生していることが分かった。12海里以内には小型の船が多く、また、プレジャーボートなども多い距離である。このような海域で有効に使用できるSARTの形態を考察するならば、従来のSART(待ち受け96時間)あるいは小型船用SART(待ち受け48時間)でも価格と大きさの点で普及させるには難しい。さらに、距岸別要救助海難船舶隻数の実態解析の結果から、海難の「発生から関知までの時間」に関しては1980年代後半でも30時間で95%までが関知されることが推測され、現在ではEPIRBも利用出来るのでさらに短縮されている。つまり、待ち受け時間についても短縮することで電池を小型化し、もって全体を小型化して利便性と普及を図ることの方が海難救助の目的に見合うと考えた。

上述の観点から、

・SARTの小型化

・待ち受け時間の短縮

・動作温度範囲の区分け

を具体的な調査研究を進めるうえでの基本方針とした。

本研究は「投下式SART」の調査研究であるが、持ち運びを容易にすることの原点として、小型軽量化が最重要課題である。海面高を確保するための支柱部分の構造や浮体と重錘の重量軽減などの全てに関連する。本調査研究はSART本体の小型軽量化とアンテナ部分の形状や分離について調査が進められた。

全体の形状を検討する際の自由度にも優れたヘリカル式の円偏波アンテナは、送受信時の応答安定性にも優れている結果が水槽実験および海上実験においても示された。円偏波を使用する船舶用レーダとの問題を検討したうえで、水平偏波にこだわらないことに性能基準の改定を望むものである。

待ち受け時間の短縮にともなって、電池を小型化できる利点を生かして数種類の一体型SART(アンテナを分離しないSART)が試作された。従来のSARTよりも大幅に小型化され、SARTの小型化の目的はひとまず達成できた。研究調査の過程で検討された各種のアイデアに基づくアンテナの取り付け方式などをさらに進めれば実用的な小型SARTが開発できると考えている。

投下式SARTとしては、アンテナ分離型とすることで顕著な小型化の成果を上げられた。

重量は2kg強程度となり持ち運びできる重さとなったが、支柱部分の折り曲げ構造の検討が遅れる結果となった。支柱部分の方式にはいくつかのアイデアが出されているが、携帯性や確実な作動を評価の観点として、今後に研究開発されることを願うものである。

 

 

 

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