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3. プラスティックの海で…

基本的な原料である石油を、化学的に合成した高分子(こうぶんし)物質をプラスティックと呼んでいますが、これに商品や材料としての特性を持たせるため、可塑剤(かそざい)・熱安定剤・紫外線(しがいせん)吸収剤・難燃(なんねん)剤・発泡剤・着色剤などの様々な添加(てんか)剤が用いられています。いわゆる環境ホルモンと称されるものが多量に含まれているのです。プラスティックが多用される要因の一つは原価が安いことです。そしてもう一つの大きな要因は「軽くて強い」「電気絶縁(ぜつえん)性が良い」「加工しやすい」などの長所を持つことにあり、この「腐らず錆(さ)びない」という特性は、特に自然生態系への影響が大きいものです。腐らないということは、自然界に入ってもそのまま存在し続けることを意味します。プラスティックによる環境汚染はとても深刻です。プラスティックを製品に加工する上での最初の形は、レジンペレットと呼ばれるものです。小さな粒状のもので、ぬいぐるみの中にも入っています。これが工場に運ばれ製品として加工されるのです。このレジンペレットは、紙で造られた袋に入れられているので、これが荷役作業の時に海に落ちたり、破けたりといったことで海に流れてしまうのです。それ以外にも、製造工場の排水溝から川に流れていくこともあります。鳥は捕食(ほしょく)したものをかみ砕いているわけではなく、胃の後部に砂嚢(さのう)という器官があり、この中には常時小石が保持され、胃袋で消化できなかった穀物や魚類の骨などを括約筋(かつやくきん)の周期的な収縮弛緩(しかん)により小石とともに攪拌(かくはん)し、いわばミキサーのような働きで消化速度を速めています。小石は次第にすり減って小さくなり小腸へと移行してしまうため、この砂嚢に小石を定期的に補給する必要があるのです。近年の調査でほぼ全ての海鳥にこの現象があることが分かってきました。そして最近では小石の代わりに多数のプラスティック破片とレジンペレットが砂嚢から発見されています。その中に含まれる化学物質による影響や、プラスティック片を食べてしまうことにより、満腹感が与えられ餓死してしまうのです。廃棄物となったプラスティックではどうでしょう。残念ながら、この被害も相当なものであるのが事実です。よく取り上げられるのはウミガメと、アシカやアザラシなどの海洋哺乳類です。亀の捕食対象は種類によって異なるものの、クラゲや海綿(かいめん)、底棲生物などがその対象であるため、水中を漂うビニールシートの切れ端などを餌と間違え食べてしまうのです。すると、消化されないプラスティックが消化管に詰まることによる栄養失調、消化管の潰瘍(かいよう)とそれらに伴う感染症などを起こす可能性があります。このような被害をもたらすゴミは、私たちの周りにあるごく一般的な、缶ビールやジュースをまとめるリング状の物や、ビニール袋、菓子やおにぎりなどの梱包、釣り糸などで引き起こされている被害なのです。これらの事例からみると、プラスティックやその製品、廃棄物による被害は海岸付近と海表面に限られるように思われがちですが、実は深海性の魚の調査でその被害域の広さを知ることができます。水魚(みずうお)という深海魚がいますが、調査では胃袋の中から鯖などの魚の他に、羽、木片、そしてプラスティック製品が見つかっています。腐らないプラスティックは深海にまでその脅威(きょうい)が及んでいるのです。プラスティックは軽いので海流にのって移動します。他国から日本に流れ着くことがあれば、日本からのゴミが他国に流れて行くこともあります。もしかすると近い将来、私たちはプラスティックの海で遊ぶのかも知れません。

 

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