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貴重な多くの問題提起のなかで、私がとくに重要と感じたいくつかを列挙して、私の所感を若干述べることにします。討論のなかでもすでに言及していますが、五十年前の名著『徳川時代の宗教』について、素直に自己批判され、みずからの近代化理論に内包されていた弱点を指摘されたのに感動しました。「終わりのない富の蓄積が必ずしもいい社会につながるのではなく、その反対に社会を徐々に弱らせることを私は見落としていたのです」と静かに語って、「宗教を経済発展のための単なる手段とみなした」誤りをかえりみ、梅岩が「商人の基本的な天職は社会に仕えること」であるとしたその意味を改めて問われました。

「経済が支配する生活」ではなく、「経済が貢献するいい生活形態」をめざすべきであり、「社会が経済に仕えるのではなく、経済で社会に貢献できる」あらたな社会環境を創造することが新世紀の課題につながることを指摘されました。

江戸時代の中期・後期は「鎖国時代の真っ只中」でしたが、「開国の精神が顕著に現れていた」ことを回顧して、「今日の日本は開国の真っ只中にあるにもかかわらず、鎖国主義の雰囲気が見受けられる」ことを憂慮されていたのも、時代の動向のみごとな対比でした。

 

 

 

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