日本財団 図書館


心学と宗教

二〇〇〇年十月十五日に京都で開かれた「心学開講二七〇年記念シンポジウム」は、私にとってとても楽しいものでした。続いて行われた討論会ではたくさんの質問が飛び交いましたが、そのうちのいくつかについて、ここで触れたいと思います。

シンポジウムの中で私は心学を“宗教”だと言いました。このことをちょっと不思議に感じた方もいらっしゃったでしょう。心学というのは決して宗教ではなく“倫理”的な運動だったのではないかと思われたことでしょう。この言葉のとらえ方の違いは英語から日本語へと翻訳する際の違いだと私は思います。日本語の“宗教”は明治時代に生まれた歴史の浅い言葉であり、古くから伝わってきた言葉ではありません。“宗教”は西洋の言葉を翻訳したものでしかありません。当然のことながらこの宗教という言葉は、当時の日本社会の中で、西洋の主だった宗教であるキリスト教を意味するようになりました。またこの言葉は、キリスト教に似た性質をもつ仏教をも含みますが、哲学や倫理学と見なされる儒教を指すことは通常ありません。しかし私の社会学的な言葉づかいにおいて宗教という言葉は、このような狭義の意味ではなく、幅広いものを指す言葉なのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION