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そして第二次大戦後には、心学はやはり政府の権力に近すぎるということで、ここでまた妥協がありました。つまり、石田梅岩の教えとは全然関係がなかったのです。石田梅岩は政治にはまったく関心がありませんでした。というよりも彼は政治体制については尊重していたわけです。

ですから私たちにとっての課題、心学復活のためには、心学は政府とは関係がなく、そしてナショナリズムとも全然関係がないのだ、「天の道」の問題ではあっても、それ以外のこととは関係がないという形で推し進めることが必要だと思います。稲盛さんが言われたように、科学技術を取り入れた頃の動きは、いわゆる昔の考え方が近代化された時期の日本において否定されたということもたしかにそのとおりです。

ちょっと頭に浮かんだことを申しあげます。荻生徂徠に関して、少し弁護してあげたいのです。先ほども申しましたように、私の同僚であるシカゴ大学のナジタ先生は荻生徂徠に関する研究を昨今ずいぶんと進められています。たしかに徂徠は農民に対して非常にロマンティックで、いわゆる町人やまちの生活が嫌いでした。ですから商人に関して非常に悪口を言っているわけです。他方、徂徠は侍という特権階級に対しても非常に批判的で、侍という身分は父から子どもに継承されていくのであり、なぜそういった人たちに治められなければならないのかと言っています。

 

 

 

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