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上田先生が言われたように、石田梅岩が心学を説いたときから今日まで二百七十年も経っていながら、実は何ら進歩していないのはなぜだろうと思うのです。梅岩が説いた心学は、われわれ商人が倫理観、道徳観をもつことを強く要求しました。ちょうど西洋で資本主義が勃興したとき―ワットの蒸気機関の発明から産業革命が起こってきた当時、それを担った初期資本主義の経営者たちは大変敬虔なプロテスタントでした。つまり、キリスト教が教える厳しい倫理観に裏打ちされた、敬虔な宗教心をもった方々だったわけです。それで資本主義は正常に機能してきたのです。日本でも元禄から明治へと展開していくなかで、日本の資本主義勃興のときに商人道を説いた梅岩の心学を受け継いだ人たちが残っていたと思うのです。

しかし、そのような倫理観に基づいた活動がそれ以降発展せず、衰退していったのは、ちょうど当時、西欧から近代科学が入ってきたことと関係があると思います。江戸時代にはすでにオランダの医学やいろいろな科学技術が日本に入ってきていました。明治になると、政府は国の近代化を促進するためにさらに西欧の文物を導入し、日本にもとからあったいわゆる伝統的なものをすべて否定しました。

 

 

 

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