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必死で努力し、仕事を通じて社会に貢献しようと思っていた若い頃の私にとっては、それが大変苦痛でした。

そのときに、石田梅岩が江戸時代に、商人というのは決して卑しいものではないということを言って商人道を説いてくれた。商人が利を求めるのは武士が禄を食(は)むことと同じなのだと言って、商人道の正当性を、あの封建社会の中で唱えたということを初めて知りました。武士がいちばん上で、農民、職人と続き、いちばん下が商人という士農工商の階級制度が厳然とあった社会の中で、学問のない、農民上がりで京都の呉服屋で奉公しただけの商人が、そういうことを唱えて商人に対して誇りをもたせた。そして同時に、商いをする者が踏むべき道を踏み外してはならないと説いたということを聞きまして、内心伍泥(じくじ)たるものがあった私は本当に勇気が湧いてまいりました。「そのように言ってくれる方があったとは」と嬉しく思って、事業家の道を一生懸命に歩き出したことを思い出します。ですから、石田梅岩が私に与えてくれたものは計り知れないと言えます。

現代の社会を表すに、科学技術の発展とともに、グローバルな経済発展ということが挙げられると思います。どの国もどの社会も、経済を抜きにしてその存在は考えられません。経済が社会のファンダメンタルズとして確立され、経済なくして社会はおろか、国家社会も存続しえないというように、今日、経済が非常に大きな力をもっています。

 

 

 

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