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この本のいちばん最後の箇所で、私は日本の「宗教のための宗教」について少し書いています。石田梅岩と心学運動についての章を含めて、この本の内容の多くは徳川時代の宗教の本質を理解しようとしたものです。しかしこの本の大きな枠組みの中では、宗教を一元的な経済目的の実用的な手段としてとらえようとしています。

実際、宗教的な教えと経済発展の間には関連性がありますが、宗教を経済発展のための単なる手段とみなすのは誤りだと思います。宗教は重要な意味をもつもの、道徳的価値観を問うものです。石田梅岩は正直と勤勉を説き、同時に弟子に対しては道を発見し、世の中で道徳に基づいた行動をすることを求めました。石田梅岩も、またプロテスタントの改革者も、宗教を金持ちになるための単なる実用的手段として利用するつもりはありませんでした。

梅岩は武士が俸給を得るのと同様に、商人が正当な利益をあげることは道理にかなっていると考えていました。しかし梅岩は、商人の基本的な天職は社会に仕えることであり、他のすべてを犠牲にして利益を最大限に増やすことだとは考えませんでした。丸山真男は宗教と政治の関係についての疑問を提起し私を批判しましたが、私は『徳川時代の宗教』の中で宗教と経済の関係を強調しすぎたきらいがありました。

 

 

 

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