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心学が生まれた時代背景

最初に、梅岩自身のことについて少しお話ししたいと思います。徳川時代の鎖国は、要するに静止という状態以外のなにものでもありませんでした。そして江戸時代の多くのものに見られた不安、動揺、興奮が、梅岩が生きた十八世紀初頭ほど顕著だったことはありません。徳川幕府は抑圧的で、幕府に批判的であるとみなされた思想家や、道徳に反する考えに対して、時折強い弾圧を加えました。しかし徳川幕府は、人々の自発的な社会的・文化的創造力を厳密にコントロールする組織や意思をもっていませんでした。武士階級は高度な文化、特に儒教文化の伝達者を自認しており、重要な知的貢献も果たしたわけですが、しかし商人や農民という庶民階級の中でも新しい考え方や感じ方はすでに生まれていました。このような刷新と実験の環境の中でなら、私たちは石田梅岩のような人物の生涯を理解することができます。

一般庶民のために新しい可能性への道を開いたのは梅岩だけではありませんでしたが、梅岩の例は非常に生き生きとしたものでした。梅岩は権力に対抗することには関心をもちませんでした。

 

 

 

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