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昔の道具と今の機械

亀岡市文化資料館学芸員 加藤絵美

 

京都府内で最大の農地を有している亀岡では、古くから盛んに農業が行われてきたが、それは、多くの人手がかかるとても辛い仕事であった。そんな中、できるだけ農作業が楽にできるようにと農具の改良が行われてきた。現在では、トラクターや田植機、コンバイン、籾摺機といった農業機械の出現で、納屋などの隅で埃をかぶっている農具たちだが、少し前まではどこの農家にもある必需品であった。今回は、そんな農具たちにスポットを当てて、当時の活躍を振り返ってみようと企画した。

ここでは、稲作過程の今と昔を紹介する。〔田打ち〕春先から行われる水田を耕す作業。土を細かく砕くために何度か耕す。はじめは、鍬を使って一鍬ずつ起こしていたが、牛馬に引かせるカラスキが使われるようになってからは、少ない人手で短期間に広い田を起こすことができるようになった。〔代かき〕水田に水を入れた状態で、土の塊を砕いたりやわらかくしてならす作業。牛馬に引かす馬鍬や砕土機などが使われた。現在は、田打ち・代かきともにトラクターで事足りる。

〔田植え〕稲作のもっとも大事な作業で、一株ずつ人の手で植えられた。同じ間隔で稲株を植えるために、目印の付いた田植縄が使われた。現在は、田植機で早く楽に植えられる。〔灌漑〕水路が水田より低い場合、桶や水車を使って水を汲み上げていた。現在はポンプで汲み上げる。〔草取り〕高温多湿な日本はすぐに雑草が生えてくる。江戸時代までは刃先が鋭い鳥の爪のような雁爪を使い、腰をかがめて草を取っていた。その後、八反取や田打車、回転除草機といった立った姿勢で除草ができる農具が急速に広まった。現在は、除草剤が使われている。〔害虫駆除〕害虫は、誘蛾灯の火で虫をおびき寄せ、皿にはった水や油に落とし駆除した。現在は薬剤を使う。

〔稲刈り〕秋、たわわに稔った稲穂は鎌を使って収穫、稲架(イナキ)にかけて乾燥させた。〔脱穀〕稲穂についた籾は、千歯扱や回転脱穀機を使って落とした。〔籾の選別〕籾に混じっているワラくずなどのごみを、箕やフルイを使って取り除く。現在は、稲刈り・脱穀・籾の選別は、すべてコンバインで同時に処理できる。〔籾摺り〕唐臼(土臼)を使って籾の殻をとり籾殻と玄米に分ける。唐箕や万石(千石)とおしを使って玄米と籾殻やごみを分け、玄米の粒の大きさを揃える。現在は籾摺機で処理できる。このように稲を栽培するには八十八を数えるほど手間をかけることから米という字になるといわれる。

今も昔も、稲作の手順は変わらないが機械化により各段に作業が楽になったのは確かである。しかし、厳しい自然との闘いの中で生み出された農具、それに込められた先人の知恵と工夫は忘れたくないものである。

 

 

 

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