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◎参前舎だより

本号はこの十月十五日(日)に京都国立国際会館で開催する、心学開講二百七十年記念シンポジウムの特集号とした。内容は記念シンポジウムの基調講演をして下さるロバート・N・ベラー博士の講演の概要を翻訳したものと、「石田先生事蹟」の原文にそれを現代語訳した「石田梅岩の生涯」の三点である。

ベラー博士のものは「心学と二十一世紀の日本」の題が示すように、石田梅岩や心学の紹介、解説が主ではなく、これからの日本や日本人が如何に生きるべきかを石田梅岩に照らし合わせて懇切に、示唆深く論じている。当日の講演と、その後のシンポジウムが大変期待されるところである。

梅岩の事蹟とその現代語訳を同時に掲載することにしたのは、それなりの理由がある。「石田先生事蹟」は梅岩に教えを受けたお弟子さんの主立った何人かが担当して、自分たちが直接見聞した事柄を書き留めて何回も編集校訂を重ねたもので梅岩の伝記としてはこれに優れるものはない。

ところが、この稿本の写しがどのような理由で流出したのか不明だが、梅岩没後六十年近く経って江戸で海賊版が出版されてしまった。当時は心学が漸く民衆の間に持て噺されて来た頃で、時流に迎合した出版物だったのだろう。それだけに内容は杜撰で、真面目な心学者から白い目で見られたのは仕方がなっかった。それを心配した上河淇水が厳密な校訂をした後に明倫舎から出版したのが今に伝わる「石田先生事蹟」なのである。その和本も現在では殆ど入手不能だが柴田実先生の精密な校訂を経たものが「石田梅岩全集」に載せてある。この日本人のわれわれでも読みこなすことが困難な徳川時代の文章を、細部まで正確に英訳を果されているのがベラー博士の貴重なお仕事の一つである。その意味から言えば「石田梅岩事蹟」は日本でよりもアメリカにおいて読み継がれているのかもしれない。その事を踏まえて今回はベラー博士の英訳本からの現代日本語訳を試みてみた。その作業を参前舎理事の加藤幸太郎氏に受け持って貰ったことも報告しておく。

 

記念シンポジウムは時期的に良かったこともあって、参前舎各位の尽力はもとより、各方面のご後援、ご協力を得て徐々に盛り上がり見せている。読者各位におかれても、奮ってご参加をお願いして筆をおく。

 

 

 

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