日常生活の中で「人の人たる道」を説き、自ら実践することで「石門心学」を大成させた石田梅岩翁は、亀岡市が誇る偉大な思想家です。梅岩翁は、今からちょうど270年前に、京都で初めて「心学講座」を開き、商人が自ら厳しく守るべき道として、「勤勉」や「正直」、「倹約(質素)」の精神を説かれました。その講座は、聴講料不要、男女を問わずだれでも自由に聴講できるという、当時では画期的な講義方式で世間を驚かせました。まもなく21世紀を迎えようとしている今日、バブル景気とその崩壊、続く経済不況、日本人の心の喪失を思わせる事象等々、社会の疲弊がますます深刻化しています。そんな現在と、梅岩翁の活躍された時代とは極めて酷似しています。まさに、歴史は繰り返されていることを痛感し、歴史を正しく知り、そして先人に学ぶことは、今に生きる私たちにとって必要にして不可欠な、人としての精神であろうと存じます。今回、国立京都国際会館で開催されます「心学開講270年記念シンポジウム」は、混迷する世紀末から新たなる生き方、あり方が求められる新世紀へ向け、時代を越えた石田梅岩翁からのメッセージを大局的な見地から語り合う意義ある機会であります。そして地方分権、住民自治が進むこの時代、心学の教えを継承し、政治倫理、経済倫理、生活環境倫理の確立を目指すこのシンポジウムが、「地域」の視点から経済および社会構造の再生と、21世紀を展望する場となることを期待申し上げ、あいさつといたします。
京都新聞社
生涯学習時代の先駆者として、いま熱き視線を浴びる「心学」の祖石田梅岩。故郷の丹波(現在の亀岡市)から再び商家の奉公人として生活した京の町で「心学」の講義を始めて、今年が270年になります。その心学開講270年を記念して、今も梅岩が始めた「心学」を学ぶ東京の参前舎が呼び掛けられ、梅岩の故郷の亀岡市と共に、ここ京都でシンポジウムが開催できますことは、地域と共に歩む京都新聞社としましても、大きな喜びであります。この機会に皆さんが「人の人たる道」を男女区別なく、庶民に説いた梅岩の「心学」にこころを向けていただければ、と期待しています。梅岩が生きた17世紀から18世紀に移る江戸時代は、まさに20世紀から21世紀へと大きく時代の扉を開こうとしている現代とよく似ているといわれます。経済社会が繁栄から混迷へと舞台転換する、その落差の激しさは、人々を不安の中に陥れ、不信の心を生みます。華やかな江戸・元禄期から様々な変革を強いられた享保期を生き抜いた梅岩も、自らのこころの不安と闘い、何よりも自ら信じる商人の道こそ社会の信用を培い、庶民の生活を発展させる「人の人たる道」という「人生の答え」をみつけたのです。この先が、梅岩の梅岩たるところではないでしょうか。商家の奉公を辞め、いまでいうところの「脱サラ」した梅岩は、自宅で「心学」の講義を始めたわけですが、その受講料は無料であり、通りがかりの人が気軽に入りやすいように「遠慮なく御通り、御聞きなさるべく候」と看板を掲げたそうです。女性にも門戸を開放したというのですから、まさに生涯学習の実践であり、災害発生時には真先に炊き出しなど救助活動を行った記録もあり、これはボランティア活動です。「有言実行」の庶民学者、教育者だった梅岩を、日米の学者と経済界のリーダーが率直に語り合うこのシンポジウムは、世紀の転換期を迎えたいま、タイムリーな企画です。21世紀の「心学」と石田梅岩の「人となり」についてどんなエピソードが飛び出すのか、ご期待ください。
二十一世紀は心の時代へ
心学参前舎 舎主 小山止敬