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ANA

自分の仕事を振り返って

 

全日本空輸株式会社

東京客室部客室乗務第三課

アシスタントマネージャー

小柳 史(おやなぎ ふみ)

(福岡県出身)

 

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「この雲は、何処から来るんだろう。」

「星の瞬くこの闇の空は、何処まで続くんだろう。」

そんな疑問が、子供の頃の私には浮かんでいました。

人はそれぞれに、幼い時から心を動かされたり、気になる何かを持っていると思います。その関心や疑問が大人になるにつれ、その人の心の奥底に宿り続けているかどうかはわかりませんが、そんな生への興味が、私をこの仕事に導いたようです。

私は、飛行機という限られた空間の中で、一日に何百人もの方とお会いしています。そして、そこにある、ひとりひとりのお客様の思いに接しています。

お客様のいろいろな姿や思いを通して、実経験以上の多くのことを学ばせて頂けますが、一方ではそのようなお客様のニーズに私達が答えられているか、不安でもあるのです。

多くのお客様は、飛行機という乗物自体や飛行機から見える景色に高い関心を示されます。

飛行機の素晴らしさは、もちろん空を飛べること。そして、その速さだと思います。一日24時間を効率的に使える乗物だと思います。また、飛行機に限らず乗物は、乗っている時間にも景色などを楽しめます。

特に私が育った九州では、各県とも海に接していることから、山と海の自然に恵まれた景色を楽しむことができます。

上空から見える、玄界灘の深い青、国東半島の特徴的な海岸線の地形。青島や有明海、穏やかな大村湾。そして活動的な桜島や阿蘇山など、自然の姿は、私達に安らぎや感銘を与えると共に自然の厳しさをも教えてくれます。

人は、見たり聞いたりする外部からの情報に反応し、対応できる力を備えていますが、そこに感情も生まれ行動を変化させることがしばしばあります。ひとつの乗物に乗ること、自然に触れること、そういう一つ一つの出来事が、私達に刺激を与えてくれます。私にとって、飛行機に乗ること、上空から景色を見ること、それは、何気ない毎日の出来事にすぎないかもしれません。でも私は、同じ景色を見ても毎日同じ感情を抱くことはありません。

それは、微妙にではあっても日々違う自分の状態によって、或いは微妙に日々変化する景色の色などによって、いつも違う何かを感じるからだと思うのです。

それと同じように飛行機を利用してくださるお客様も、同じ航空会社の見慣れた航空機内なのに、今日の機内はこの前と、若しくはいつもと違うな、という感じを持たれることがあるかもしれません。

飛行機の運航自体に直接関わることではありませんが、私達にとっては、どのようなお客様がどのように乗ってこられるのか、それがとても重要なポイントになるのです。その日その時ご搭乗されるお客様によって、或いはお客様のご様子によって、サービスのポイントやおもてなしへの多様な備えを乗務クルー全員が考え、そしてお客様のその時々に応じた快適な空間のご提供を心がけます。次の機会にも全日空を選んでいただけるよう切に願いながら。

運送を行う飛行機は、効率性を高める乗物と言えますが、サービスは、時に非効率なものです。相反しそうにも思えますが、このふたつがお客様の心に沿いながら共存して初めて、運送サービスに課せられた使命を果たせると考えています。自分にできること、そしてなすべきことは、お客様のニーズを受けとめられる様、お客様の『思い』にきちんと向き合っていくことと考えます。

これからもお客様との心のふれあいを大切にし、美しい空に囲まれた空間の中で、日々の仕事を楽しんでいきたいと思います。

 

 

 

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