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2. バリアフリー化の対応の方向性

 

1.を踏まえ、長崎県の海上旅客輸送におけるバリアフリー化促進の方向性を整理する。

(1) 基本的な考え方

1] 長崎県における海上旅客輸送の位置づけ

長崎県は多数の離島を有しており、20万人近い人々が生活している。本土と地理的に隔絶された離島においては、海上旅客輸送が島民の生活に不可欠な生活航路となっており、架橋によって本土と結ばれた島や半島地区においても、海上旅客輸送がこれに準じる役割を果たしている場合がある。

一方、こうした地域では、他の地域に先行して高齢化が進展している場合が多く、離島部には約4万人の高齢者、約1万人の身障者が居住している。

こうしたことから、海上旅客輸送、特に離島航路を道路に準じる基幹的なインフラと捉え、そのバリアフリー化の実現に向けて、事業者の自助努力を待つばかりでなく、行政等の各関係主体が適切な負担を行った上で、一体となって推進していく必要がある。

 

2] 旅客船事業者におけるバリアフリー化の位置づけ

これまで旅客船事業者は、海上旅客輸送の特性に基づき安全性の確保が事業運営の大前提であった。今後もこのことに変わりはないが、交通バリアフリー法の制定により、加えてバリアフリー化の実現に対しても責務を負うこととなった。

旅客船事業者においては、バリアフリー化対応に要する費用負担や船舶の安全性確保のための構造的な制約などの観点から、バリアフリー化を事業運営の新たな制約要因としての側面からのみ捉えがちである。しかし、高齢者・身障者を含めて誰もが利用しやすい航路の実現は、社会的責務を全うするためだけのものでなく、島民の島外への外出行動あるいは島外からの観光客誘致の双方において、需要の拡大にも寄与するものである。

旅客船事業者は、こうした需要拡大の側面にも注目し、高齢者・身障者等の利用を促進するにはどうすればよいか、という観点からバリアフリー化に対して取り組んでいくことが期待される。

 

3] 利用者の視点に立ったバリアフリー化

バリアフリー化は、高齢者・身障者等が利用しやすくなることが本来の目的であり、そのためには、高齢者・身障者等の利用者の視点に立ったバリアフリー化を実現することが重要である。このため、バリアフリー化への取り組みに際しては、「移動円滑化基準」等の法制度に適合することだけを目標とするのではなく、それを最低限の対応と位置づけ、高齢者・身障者等の利用者のニーズを十分に踏まえつつ、取り組んでいく必要がある。

その際には、個々の施設がバリアフリー化されていることに加え、移動経路がわかりやすい、移動経路が短いといった点も含めて、「利用者へのやさしさ」に配慮することが重要と考えられる。この点に関して、「公共交通ターミナルのやさしさ指標」を策定した「バリアフリー度評価基準作成のための調査研究事業報告書」(2000年2月、交通エコロジー・モビリティ財団)では、「やさしさ指標」の考え方として、以下のように整理している。

 

 

 

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