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「長崎県の海上旅客輸送におけるバリアフリー化促進に向けた提言」

 

1. バリアフリー化の基本的な考え方

 

(1) 長崎県における海上旅客輸送のバリアフリー化の位置づけ

長崎県は多数の離島を有しており、20万人近い人々が生活している。本土と地理的に隔絶された離島においては、海上旅客輸送が島民の生活に不可欠な生活航路となっており、架橋によって本土と結ばれた島や半島地区においても、海上旅客輸送がこれに準じる役割を果たしている場合がある。一方、こうした地域では、他の地域に先行して高齢化が進展している場合が多く、離島部には約4万人の高齢者、約1万人の身障者が居住している。

こうしたことから、海上旅客輸送、特に離島航路を道路に準じる基幹的なインフラと捉え、そのバリアフリー化の実現に向けて、事業者の自助努力を待つばかりでなく、行政等の各関係主体が適切な負担を行った上で、一体となって推進していく必要がある。

 

表1 長崎県および離島部における高齢者数・身障者数

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注) 人口、高齢者数(65歳以上)は1995年、身障者数は1999年

( )内は当該年の人口に対する比率

資料) 「国勢調査」および長崎県資料より三和総合研究所作成

 

(2) 旅客船事業者におけるバリアフリー化の位置づけ

これまで旅客船事業者は、海上旅客輸送の特性に基づき安全性の確保が事業運営の大前提であった。今後もこのことに変わりはないが、交通バリアフリー法の制定により、加えてバリアフリー化の実現に対しても責務を負うこととなった。

 

《交通バリアフリー法に基づき公共交通事業者が講ずべき措置》

・新設の旅客施設、車両等についての「移動円滑化基準」適合への義務づけ

・既存の旅客施設、車両等についての「移動円滑化基準」適合への努力義務

・高齢者、身体障害者等に対して必要となる情報の適切な提供(努力義務)

・職員に対する移動円滑化を図るために必要な教育訓練(努力義務)

 

旅客船事業者においては、バリアフリー化対応に要する費用負担や船舶の安全性確保のための構造的な制約などの観点から、バリアフリー化を事業運営の新たな制約要因としての側面からのみ捉えがちである。しかし、高齢者・身障者を含めて誰もが利用しやすい航路の実現は、社会的責務を全うするためだけのものでなく、島民の島外への外出行動あるいは島外からの観光客誘致の双方において、需要の拡大にも寄与するものである。

旅客船事業者は、こうした需要拡大の側面にも注目し、高齢者・身障者等の利用を促進するにはどうすればよいか、という観点からバリアフリー化に対して取り組んでいくことが期待される。

 

 

 

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