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(3)生業としての狩猟

武蔵村山市の一部の地域では、哺乳類や鳥類を対象とした狩猟が行われていたことが記録されている(武蔵村山市史編集委員会『武蔵村山の民俗その二』、1997)。

この地域の狩猟は、毛皮や食肉を得ることを主な目的として行われ、その対象種はキツネ、タヌキ、イタチ、ノウサギ等の哺乳類、キジ、コジュケイ、スズメ等の鳥類が主体であったとみられる。猟の方法は鉄砲の使用を中心に、一部の動物ではワナが使われたり捕獲する場合もあった。いずれも動物の習性を巧みに利用している点が注目される。

なお、これとは別に食料の自給、飼育、遊び等を目的として小動物(鳥類、両生・爬虫類、昆虫類を含む)の捕獲が日常的に行われていたことは、各地の聞きとり調査においてもたくさんの事例がみられる。生業と自給自足という目的の違いはあるものの、身近な生きものを観察し、その習性を見極める技量が求められていたことに変わりはない。

(4)民間伝承

丘陵周辺地域では、自然暦として身近な動植物を扱った伝承や俗信、俚諺がたくさん記録されている。これらは、気象や農事暦と深くかかわり、里山の暮らしを側面から支えてきた要素のひとつといえる。当時の人びとが注目していたのは、いずれも里山を代表する生きものたちであり、そのほとんどは現在でも容易に観察することができる。

ところで、各地の文献資料にはキツネに関する伝承がしばしば登場する。なかでも「狐の嫁入り」や「狐に化かされた話」は広く知られており、そのほかにも

・狐を飼っている家は金持ちになるという伝承(所沢市教育委員会、前出)

・狐の穴や狐塚に関する伝承(武蔵村山市史編集委員会、前出)

等がある。

 

4)信仰、行事と里山の自然

(1)年中行事における植物の利用

里山の暮らしでは、年間をとおしてさまざまな行事が行われてきた。そこで利用される植物はさまざまで、なかには行事の営みに重要な役割を担っている事例も少なくない(表I-2-6)。

1] 小正月行事

・アボヒボ:正しくは「粟穂稗穂」(あわぼひえぼ)といい、農作物の豊作を祈願する予祝儀礼のひとつといわれる。利用される樹は、加工しやすい柔らかな材質のものが多く、丘陵周辺地域ではヌルデあるいはニワトコがよく使われる。これらの幹や枝を適当な長さに切って3つ束ねたものと、割竹の先端にいくつも差し込んだタイプのものがある。また同じタイプでも、地域や家庭あるいは供える場所によってさまざまな形態がみられる。

 

 

 

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