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2. 里山文化にみる自然

1)暮らしと自然

里山の自然は、地域の人びとにとってかけがえのない財産であった。このことは、生業を基盤とした日常生活のさまざまな場面で垣間みることができる。

狭山丘陵とその周辺地域では、少なくとも1960年代まで里山の自然と深くかかわった暮らしが展開されており、現在も一部の地域でそのなごりを見出すことができる。

ここでは、聞きとり調査による記録を踏まえ、各地域の既存資料を加えて「住まい」をめぐる植物の民俗、身近な動植物へのかかわり方、年中行事や民間信仰からみた里山の自然等についてまとめる。

2)「住まい」をめぐる植物の民俗

(1)屋敷林

1] 屋敷林のある風景

かつて狭山丘陵内の集落や周辺地域では、宅地内にさまざまな樹木を植栽したいわゆる屋敷林をもつ農家が多かった。これらは防風や防砂、防火等の機能をもち、また建築用材や燃料の確保、さらには生活用具、民俗行事等に必要な材料を得るためにも重要な役割を担っていたことが知られている。

2] 構成樹種

屋敷林を構成する樹木は、ケヤキ、シラカシ、アラカシ、スギ等を主体とし、一部でモウソウチクやマダケの竹林を併わせもつ場合がある。これらが屋敷の周囲をとり囲み、その内側にウメ、カキ、モモ、ツバキ、サザンカ、サルスベリ、ガマズミ、ヒバ、ムクゲ、ナンテン、イヌツゲ、シュロ、カエデの仲間等さまざまな樹木が植栽されている。

表I-2-1は、屋敷林の構成樹種と利用の関係をまとめたものであるが、それぞれにいろいろな目的をもっていたことがよく分かる。高木になる樹は台風や冬の季節風を防ぎながら成長し、やがて建築用材として利用されたり、生業や暮らしに必要な各種の用具を造る材料にも使われ、最終的には燃料として無駄なく消費されていた。

一方、低木主体の庭木の多くは、食とのかかりを除けば年中行事や信仰等の暮らしを支える里山文化の形成と深いつながりをもっているのが大きな特徴である。

3] カシグネについて

屋敷林における景観的な特徴のひとつに「カシグネ」とよばれるものがある。これは、主としてシラカシを屋敷の周囲あるいは母屋をとり囲むように高垣に仕立てたもので、かっては4間程の高さをもつ見事なカシグネが見られた。この目的については、一般に防風、防砂、夏の強い日射を和らげる等の効果があるとされているが、もうひとつ重要な役割として防火をあげることができる。聞きとり調査においても、近隣で火災が発生したときの貰い火を防ぐ効果があるという話を各地で採集している。

 

 

 

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