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このように、先ず住民が自分のまちを見詰め直すことが重要である。

 

2] 危機意識と住民自治

上述の事例にある住民同士の議論はきっかけは行政からの様々な提案であった可能性は高い。しかし、以降の過程では、行政による誘導は入り込んでいない。例えばこうした状況は黒壁の出資構成にも現れている。この結果、黒壁は長浜の新しい地元企業として誕生し、黒壁自体がリスクを取るという緊張した環境の中で、事業が進められた。行政が大きく関与していた場合と単純に比較することはできないが、黒壁が甘えを捨てたところに成功のポイントが存在すると考えられる。

 

3] 経営理念の確立

黒壁自体が本物を指向する経営理念をもったように、その後の長浜再生の中で、長浜の商店街はどうあるべきかを経営理念として確立したことが大きい。利益追求は大切である。しかし、理念無き利益追求は一過性のものに飛びつきかねないことになる。この点、大規模小売店舗の進出による空洞化の経験から、市内の商業をどう立て直すのかという議論を通じ、大資本と同じ事はしない、人が来るからと土産物売り場は作らないという理念を確立するに至った。これが、本物をみたいという消費者に訴求することにつながった。

 

4] 市民への働きかけ

黒壁は単に商品開発・製造・販売をするだけでなく、その開業当初から黒壁大学と銘打った市民講座を開設し、地元小学生の課外授業としてガラス制作現場の見学受入れ、体験等を通じて、市民のガラス文化に対する理解を深めていった。その結果、趣味でガラスをつくる人が増加するなど市民の意識啓発と新しい地域文化の創出に貢献している。

このように、観光都市というと、とかく外から来る人のみに視点をあてがちとなるが、黒壁は長浜市民を意識し、様々な形で黒壁の事業への理解、共感を育むことを行った。この結果、黒壁によるガラス文化の受容だけでなく、市民が自分の町に対する誇りや愛着を再生することにもつながった。

 

 

 

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