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欧州裁判所は、加盟国又は個人が、EC機関の行為のGATT違反を無効訴訟において主張できるかという問題についても、直接効果と同様の理由により、原則として否定するが、共同体法がGATTの特定の条文に明確に言及している場合等は例外としている。WTO協定についても、WTOとGATTの本質的な共通性を根拠として、否定している。

以上のような欧州裁判所のGATT/WTO協定に対する態度から、わが国への示唆として、以下の三点が得られた。第一に、地方公共団体の協定遵守の観点からWTO協定の裁判規範性を承認することは、それ以外の場面での規範性の承認に繋がる可能性があることから、規範性の承認に当たっては、全体的な考察を行う必要があること。第二に、米国・ECがWTO協定の裁判規範性を原則として否定している状況において、わが国がそれを承認することが、わが国にとって最大利益となるのか探求する視点が必要であること。第三に、EC理事会がWTO協定の採択に当たりその直接効果を否定していたことと比較すれば、わが国では、条約の国内的効果に対する認識が不足しており、今後の条約締結に際しては、その国内法的効果に対する認識を示す必要があること、である。

今後の検討に当たっては、これらの示唆を踏まえ、単に地方公共団体の協定遵守を確保するという観点だけではなく、わが国にとっての最大利益を探求するという観点から全体的な考察を行うことが必要であろう。

 

(4) 結論からのアプローチ

本調査研究は、国際協定と地方公共団体の関係についての議論の第一歩として位置づけられるべきものであり、また、調査研究における時間的な制約から十分な検討を行うことができなかったため、地方公共団体における協定遵守の問題については、上記のとおり議論を整理するにとどめる。

そこで、最後に、国が地方公共団体に対して協定遵守を確保できるかどうか、すなわち地方自治法第245条の5第1項の「法令」に協定が含まれるかどうかについて、両方の解釈を仮定した場合に、それぞれどのような結論が導かれ、それが国・地方公共団体双方にとってどのような意味を持つのか検討する。

 

ア 「法令」に協定が含まれる場合

地方自治法第245条の5第1項の「法令」に協定が含まれるとすると、特例政令規定事項以外の協定規定事項についても、協定違反を根拠として、国は地方公共団体に是正の要求を行うことができることとなる。

しかし、地方公共団体の調達が協定違反かどうかは、最終的にはWTOの紛争処理委員会(パネル)の判断を待つ必要があるが、外国政府から協定違反の指摘を受け、かつ国としても協定違反と考える場合に、パネルの判断を待たずして、国として協定違反を認め、是正の要求を行い、協定の遵守を確保すべきであろうか。あるいは、そのような場合であっても、当該外国政府とパネルで争い、敗訴し、協定違反が確定した時点において、はじめて是正の要求を行うべきであろうか。また、両者の中間的なケースとして、過去のパネルの報告書により、パネルの判断が推測可能な場合においては、どうすべきであろうか。

どのような選択をするかは、個別具体の事例に即して判断する以外ないと思われるが、国としては検討を要する課題であろう。

 

イ 「法令」に協定が含まれない場合

地方自治法第245条の5第1項の「法令」に協定が含まれないとすると、特例政令規定事項以外の協定規定事項については、協定違反を根拠とした是正の要求を行うことができず、国は地方公共団体の協定遵守を確保できないこととなる。

したがって、外国政府が地方公共団体の調達に関し協定違反の指摘を受け、かつ国としても協定違反と考える場合であっても、地方公共団体が国の助言・勧告に従わない限り、国として是正措置がとれず、当該外国政府からWTOの紛争処理委員会(パネル)に提訴され、敗訴する可能性がある。

このような事態が生じた場合、それ自体非常に大きな問題であるが、国として今後同様の事態が生じることを防止するため取るべき選択肢の一つは、特例政令を改正し、当該外国政府の指摘に係る協定規定事項を特例政令規定事項とし、地方自治法上の是正要求ができる根拠を整備することであると思われる。

 

 

 

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