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しかしWTOでは、パネルの設置及びパネル(上級委員会)裁定の採択に関して共にネガティブ・コンセンサス方式が採用された。すなわち、パネルの設置を否決するあるいは裁定を否決するという全加盟国の合意がない限り、パネルは設置され、裁定は採択されるのである。そのためWTOの紛争解決手続は、方当事国によってその進行がブロックされる可能性は消え、より司法的手続に近づいたと言われる(18)

このGATTとWTOとの違いを踏まえると、先に検討した西陣ネクタイ訴訟での京都地裁の判決理由は、再検討する余地があろう。つまり、WTO紛争解決手続は裁判に類似したものとなったのであって、「違反した締約国が関係締約国からの協議の申入れや対抗措置を受けるなどの不利益を課せられることによって当該違反の是正をさせようとする」という政治的かつ柔軟なものではないと言い得るからである(19)。このような違いに着目すれば、ガットは直接適用可能ではなかったが、WTO協定はそのまま直接適用可能だと考えることもできよう。また政府調達協定の諸規定は、直接適用に足るほど十分に明確であると思われる(20)

ただし、WTOにおいても、加盟国が協定違反の是正を受け入れられない場合には、代償措置や譲許の停止等の対抗的措置を講ずることになるため、協定内容の実施についてはなお一定の柔軟性が残っていることも否めない(21)。したがって、GATTとWTOとで、わが国における直接適用可能性の判断を変更するほどの本質的な違いが生じたのかどうか、慎重に考慮する必要があろう(22)

 

(2) 裁判所による適用と地方自治法上の是正要求との違い

今一つ留意すべきは、本稿が念頭においている地方自治法上の是正要求における当該協定の適用は、裁判所によるWTO協定の適用とは異なることである。これまで検討してきたような条約の直接適用可能性は、もっぱら個人による訴えを判断する際に、裁判所が条約を適用できるかという場面での問題であった。しかし地方自治法245条の5第1項に基づく是正要求の場面では、行政府たる国と地方公共団体との関係において、条約を適用できるかが問題となる。したがって、仮にわが国の裁判所においてWTO協定が個人の請求を認めるために直接適用できるとは言えないとしても、国と地方公共団体との関係においては地方自治法上の是正要求という形でWTO協定を直接適用できるとすることも、理論的には可能であろう。つまりわが国において、批准された条約は法律や政令と同様に国内的効力を持つため、地方自治法上の「法令」として扱うことができ、WTO政府調達協定も地方公共団体によるその違反の是正を要求するという場面では、直接適用可能と考え得るということである(23)。特に憲法98条2項の国際協調主義の観点からすれば、地方公共団体の調達行為をWTO協定に整合させる必要があり、政府調達協定も是正要求可能な「法令」に含まれると解釈する余地もあると思われる。しかし、その場合には、個人の請求に関する裁判所の判断における直接適用可能性の問題とどう異なるのか、注意深く整理しておく必要があろう(24)

(阿部克則/千葉大学法経学部法学科助手)

 

注)

(1) 山本草二『国際法(新版)』100-4頁(有斐閣 1994年)。なお、上述のようにして編入された条約が、国内法秩序においていかなる効力順位を与えられるのかに関しては、国際法自体は定めず、各国の国内法に委ねられる。わが国では、法律より優位することは異論がなく、憲法との関係では憲法優位説が有力である。

(2) 岩沢雄司『条約の国内適用可能性』321-4頁(有斐閣1985年)。

(3) 岩沢、前掲書、33頁。

(4) 最判昭和42年6月9日訟務月報13巻1131頁。東京地判昭和57年6月11日行集33巻6号1283頁。

(5) 東京高判平成5年3月5日判タ811号87頁。

(6) 大阪高判平成6年10月28日判時1513号86頁。

(7) なお、わが国政府の国会答弁でも、「セルフエグゼキューティング」という用語で、直接適用可能な条約と直接適用可能でない条約との区別が説明されている。岩沢、前掲書、42-3頁を参照。

(8) 本章では、条約規範としての関税と貿易に関する一般協定の場合は「ガット」、国際組織の場合は「GATT」、と記す。

(9) 神戸地判昭和36年5月30日下級裁判所刑事裁判例集3巻524-5頁。

 

 

 

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