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なお、実務においては、一般に「法令」という場合には、社会生活の規範として強要性を有する成文の形式をとるもののうちから条約を除いた国内法だけの意味に用いられるのが普通であるとされる(6)。しかし、「法令」の定義は必ずしも一律ではなく、(i)国会が制定する法形式である法律と行政機関によって制定される命令(政令・省令等)とを合わせて呼ぶ場合(例えば、自治法第14条第1項)のほか、(ii)条例、規則その他地方公共団体の自治法規をも含む場合(刑事訴訟法第335条第1項)、(iii)裁判所の規則を含む場合(刑事訴訟法第39条第2項)、(iv)訓令をも含むと解される場合(刑法第7条第1項)等があるとされる(7)

このような「法令」定義の多様性からすれば、一般には「法令」が条約を除いた国内法だけの意味に用いられることが普通であるとしても、自治法第245条の5第1項の「法令」にWTO協定等の条約が含まれるかどうかは、なお検討すべき必要があるものと思われる。

なぜなら、仮に自治法第245条の5第1項の「法令」に協定が含まれないとすれば、協定違反を根拠とした是正の要求はできないこととなるが、それはすなわち、政府調達協定の規定のうち、特例政令規定事項以外については、国として地方公共団体の協定遵守を確保できないことを意味するからである(8)

また、政府調達協定に関しては、特例政令第1条において、同政令の趣旨として「1994年4月15日マラケシュで作成された政府調達に関する協定を実施するため」と規定されており、協定が条文中に引用されているため、その解釈如何によっては、政府調達協定が自治法第245条の5第1項のr法令」に含まれると解釈できる可能性がある(9)

そこで、国が地方公共団体の協定遵守を確保できるのか、逆に地方公共団体はどの程度の協定遵守義務を負うのかという問題を検討するため、第7章、第8章においてWTO協定の国内直接適用の可能性について検討することとする。

 

注)

(1) この場合において、当該外国政府があくまでも協定違反と指摘する場合、国としては同委員会の判断が示された以上、もはや是正の要求ができないため、WTOの紛争処理委員会(パネル)に提訴される可能性がある。そして、WTOのパネルが国地方係争処理委員会と同じ判断をするとは限らず、わが国がパネルにおいて敗訴する可能性は否定できない。その場合は、特例政令上は適法であるが、協定には違反する事例として、下記3において検討することとする。

(2) 第2章において述べたとおり、これまでの問題発生事例は、すべて特例政令がカバーしていない協定の規定との関係で問題が指摘されている。

(3) 本章では、「協定違反」という言葉を使用した箇所があるが、「協定違反」の認定は、最終的にはWTO紛争処理委員会の判断を待たねばならないことに注意を要する。

(4) 地方自治制度研究会編『Q&A改正地方自治法のポイント』130頁(1999年)

(5) 地方自治制度研究会編、前掲書、129-130頁

(6) 前田正道編『ワークブック法制執務(全訂)』1頁(1982年)

(7) 大森政輔他編『法令用語辞典(第七次改訂版)』646頁(1996年)

(8) 既に述べたとおり、協定違反を根拠とした助言・勧告(自治法第245条の4第1項)は可能であると思われるが、助言・勧告は地方公共団体に法律上の改善義務を生じさせるものではない。

(9) 本報告書においては、これまで政府調達協定の事例をあげて検討してきたが、本報告書の関心事は政府調達協定に限定されず、WTO協定全般を対象としているところであるが、特例政令の解釈からのアプローチは、WTO協定全般の議論には当てはまらないことに注意を要する。

 

 

 

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