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第6に、マサチューセッツ州のビルマ法の問題が国内訴訟手続きを通して解決されたことからもわかるように、米国には国内的に調達無差別化を志向するルールがあり、それを動かす主体がいた。ルールとしては、州の調達差別を国内的に問題とする以下のような法的議論が存在した(35)。第1は連邦政府の外交権(The Foreign Affairs Power)である。これへの侵害が認められた例として、非居住外国人へ相続権を否定したオレゴン法を外交権侵害とした判例、州のバイアメリカンを外交権侵害とした判例がある。ただし、別の判例では、州のバイアメリカンは、全ての外国に一律に適用されるので外交権侵害ではないとされた。第2は連邦の先占(Federal Preemption)の理論である。これには黙示的先占(Implied preemption)も含まれる。これは、マサチューセッツ州ビルマ法の最高裁判決においてもとらえた。第3は通商への制約を規制する国際通商条項(Foreign Commerce Clause)である。これはマサチューセッツ州ビルマ法の第1サーキットでも理由として認められた。他方、市場参加者(Market Participant)の理論(調達においては地方政府も1市場参加者であり、規制等の場合と異なり差別が許されるという理論)の観点からは州の調達差別は合法とする議論も強い。いずれにしろ、国内的に地方政府の調達差別の是非を争うルール体系が整備されている点は、それが遅れている日本と比較した場合興味深い。他方、このように政府調達の差別を採り上げて活動する主体として、米国においては産業団体が存在する。マサチューセッツ州ビルマ法において原告となりマサチューセッツ州政府を訴えたのも国内の産業団体であった。この点も、日本の実践と比較した場合興味深い。日本の国内の産業団体が正面から地方政府の調達差別を問題にすることはあまりない。

第7に、問題として2つのモニタリングの問題がある。まず、調達実行に関する情報を集めるのは困難である(差別の有無、また、少数民族・女性企業が本当にそれに該当するのかのチェック等)。ただ、米国の場合、差別に反対する調達部局の団体であるNASPOや相互主義を実践しているオレゴン州が州産品優遇等の情報収集をしており、それらが若干透明性を高めている。また、外交的制裁として調達差別を行う場合、企業の国際的事業関係、海外等における操業実態を知る必要があり、そのような情報はより取得困難であるNGOの情報に依存することもできるが正確性、正当性の観点から問題がある。

(城山英明/東京大学法学部助教授)

 

注)

(1) NASPO(1994), State and Local Government Purchasing: 4th edition.

(2) Oregon State(2001), "eciprocal Preference Law, "(http://tpPs.das.state.or.us/purchasing/recp01.html)

(3) USAENGAGE(2000), "State and Local Sanctions Watch List, "(http://usaengage.org/news/status.html)

(4) 貿易・投資円滑化ビジネス協議会(2000)、「米州の貿易・投資上の問題点と要望」。

(5) 2000年10月USTR政府間関係課におけるヒアリング。

(6) 2001年2月ニューヨーク州調達部局ヒアリング。

(7) 2000年10月ニュージャージー州調達部局ヒアリング、2001年1月カリフォルニア州調達部局、2001年2月ニューヨーク州調達部局ヒアリング。

(8) 2001年2月ニューヨーク州調達部局ヒアリング。

(9) H.R.5110(http://thomas.loc.gov/cgi-bin/query/D?c103:2/〜c103v2GdnK::).

(10) 2000年10月Powell, Goldstein, Frazer & Murphy LLPにおけるヒアリング。

(11) 2001年2月ニューヨーク州調達部局ヒアリング。

(12) 2001年2月ニューヨーク州調達部局ヒアリング。

(13) "New York State Procurement Council Procurement Guidlines, "Section 2.

(14) 2001年1月カリフォルニア州調達部局・貿易部局ヒアリング。

(15) Steve Towns, "California Proposes Procurement Overhaul, "(http://www.govtech.net/publications/reseller/1997/sept/special_report/specialreport.phtml).

(16) NASPO(1994), Table 60. 貿易・投資円滑化ビジネス協議会(2000)。

 

 

 

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