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このような観光の経験の矛盾した性質について、ロジェク*23は特に観光の目的地における「非日常性」と「日常性」という対照的な二つの性質を指摘し、上記のようにどちらか一方を強調するのでなく、複雑な両者の関係をつかみ出そうとする。このような考え方は、抵抗の空間や体制順応的空間のどちらかに境の空間を決めつけるような、よくある本質主義的考えとは一線を画している*24。ロジェクのような捉え方からすれば、境の空間で強調される「両義性」は、非日常の性質を語るための要素ではなく、「非日常」かつ「日常」であるという「両義性」として認識されうる。実際、観光の目的地がまったくの非日常の異他なる空間であれば、旅行者の安全性は確保されないし楽しみのコードも通用せず、逆に何某かの異他性がなくても観光の目的地の魅力はなくなるのであり、観光現象を支えるのは、境や周縁という言葉が潜在的に有しているこの両義的な「中間」の性質である。

ただし、この中間の領域においては、その本質性のなさや不確実性故に空間性をめぐる争いが展開されており、その意味で決して中立ではないことも認識しなければならない。例えばヘザーリントン*25は、イギリス人の大部分が心に抱く牧歌的な田園地方の表象と、それとは相容れない新世代の旅行者たちが抱く神秘的で自然の真正性を有した田園地方の表象が争っており、中性の性質を持った田園地方はまさしく闘争の空間となっていることを描き出している。つまり観光の空間の生産とは、このような様々な主体、異なるコンテクストにおける空間をめぐる争いの上に形成されていると考える必要がある。

 

(3) 空間の内容と異種混淆性-ヘテロトピアとしてのリゾート-

またカルチュラル・スタディーズの先駆け的存在であるストリブラスとホワイト*26は、周縁や境界性において強調される異種混淆性を、日常でないものとしてステレオタイプ化された他所ととらえる場合と、その混ざり合う行為、異種混淆性そのものを捉える場合に区別し、その関係を理解しようとした。特にストリブラスらは、後者の「異種混淆性」を強調してその多様性を認識し、より境の空間の「内容contents」を動態的に記述する方向性を打ち出している*27

 

*23 Rojek, C., ‘Indexing, dragging and the social construction of tourist sights' (Rojek, C. and Urry, J. eds., Touring Cultures: Transformations of Travel and Theory, Routledge, 1997), pp.52-74.

*24 1]ストリプラス, P・ホワイト,A. (本橋哲也訳)『境界侵犯-その詩学と政治学-』、ありな書房、1995、326頁。2]フェザーストン, M. (川崎賢一・小川葉子編著訳)『消費文化とポストモダニズム』、恒星社厚生閣、1999、167頁。

*25 前掲16

*26 前掲24の1]

*27 前掲24の1]p.264.

 

 

 

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