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一席入選論文(全文)

競走馬産地への旅の変遷にみるツーリズム発展の背景

 

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小長谷悠紀

 

 

キーワード:観光の発展(Tourism Evolution)

馬産地(Horse-breeding Center)

競馬ファン(Horserace Funs)

日高地方(The Region Hidaka of Hokkaido)

 

I. はじめに

(1) 研究対象のツーリズム

―わが国の競馬、馬産地とファンの観光―

日本の中央競馬は、昭和30年代末から約10年間、競馬ブームといわれる人気を得ていた。ピークにあっては、「江川、尾崎にハイセイコー」と、スポーツの名選手と並んで国民的注目を集める人気馬をも輩出した。この後、競馬の人気は一旦収縮するが、再び盛り返して平成競馬ブームを迎えた。参加人口から判断すれば、ピークは平成7年である1

競馬競走に用いられる馬は、輸入規制緩和の進行や内外価格差などから輸入増加傾向にあるが、従来国内における生産・育成を主軸に供給されてきた。多くは、国内外における競走成績に秀でた馬や血統が良いとされる馬を、次世代の父馬・母馬として行われている。勇払平野の東から襟裳岬周辺にかけての河岸段丘地に、ベルト状に、一大産地が形成されている2(図1・2)。海岸線の国道(235・336)を行くと、河川や各町の市街地、幾つかの漁港地区を挟みながら、牧場地帯が日高山脈の山裾に向けてひろがり、放牧地に立つ馬や牧場家屋、種牡馬の名を記した看板などが目に入る。国内最大の「競走馬のふるさと」である。

本論で対象としたツーリズムは、競馬場を離れて父・母馬となった過去の競走馬に、これらに親しんだ競馬ファンが「会いたい」、あるいは「間近で見たい」として牧場を訪れるものである。いつ頃からか「牧場見学」という呼称が定着した。平成に入り、夏の休暇などを利用して産地を訪れるこのようなファン観光者の増加が目立った。特に、平成3年、人気馬オグリキャップが新冠町で種牡馬入りしたことが、引き金になったといわれている。

 

1 『レジャー白書』によれば、平成元年のわが国の中央競馬参加人口は730万人、平成7年は1,320万人である。平成8年は1,280万人、9年1,180万人、10年1,010万人。

2 競馬で使われるサラブレッドなど軽種馬の国内生産は、平成9年度で約1万頭であったが、このうち日高管内で約8,700頭が、隣接する胆振管内で約700頭が生産されている。

 

 

 

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