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多屋:私は漁業の問題を考えているわけですが、ボルゲーゼ先生はコミュニティー・ベースド・マネージメントということを強調されています。我が国の沿岸漁業の場合はコミュニティー・ベースド・マネージメントがかなり昔から展開されていて、それなりに成功していると考えられます。他方で、沖合漁業がありますが、これは一日以上沖合に出て操業するというものでありまして、近代的な企業が漁船を仕立てて行なうものです。このような沖合漁業では、儲けがなければ船長はいつでも首を切られるというような、企業的な操業をやっているわけでありまして、こういった企業的な漁業にはコミュニティー・べースド・マネージメントの展開はなかなか難しいのではないかというふうに考えています。

沖合漁業の場合は、貧困の問題もなくて、同じ漁場に日本の各地から集まってくるために、漁船集団には沿岸のような地域性がありません。特に漁獲しているのは小型の浮魚というもので、マイワシ、サバ、アジ、サンマなどですが、これは乱獲の問題はあまりありません。このような沖合漁業の管理に関してはコミュニティー・ベースド管理というのは向かないのではないでしょうか。

ボルゲーゼさんがよくないと言われているITQ制度(譲渡可能個別割当制度)ですが、私は場合によってはこのような権利を私有化する方式でやってもいいのではないかと考えています。この辺はどうお考えでしょうか。沖合漁業の管理に関して、場合によっては、私有化しながら、喧嘩のないようにしていく、という方法も選択肢の一つとしてあり得るのではないか、と考えています。

 

ボルゲーゼ:どうもありがとうございます。まず最初に漁業ということをグローバルで考えますと、大変病んでいると言えると思います。FAOの統計を見てもわかるんですけれども、やはり巨額の資金を使って補助金が注ぎ込まれている。ある意味で赤字垂れ流し産業なわけです。私どもは今過渡期にあると言えるのではないでしょうか。狩猟というような産業ではなくて、資源を養殖するという時代に今なりつつあると思います。ですから、グローバルにこうした問題があるわけであります。資源を担当する経済学者によりますと、こんなことがよく言われております。ある状況においては市場を持つことはできないんだと、市場経済が機能しない場合もあるんだと言われます。ですから、この所有権をある場合に隔離したほうがいいと。でもそれがうまくいかない場合もあるんだと言われます。海洋の魚というのはどういうカテゴリーに属するかと考えてみますと、やはり私有という、プライベートな所有という概念にはあんまり適しないのではないかというふうに考えられます。ニュージーランドやオーストラリア、アイスランド、カナダ、こういった国々である程度言えるんですけれども、ITQ、individual transferable quotaを導入しつつあります。どんな場合でもどういう影響が出ているかと考えてみますと、手作業的な、小規模の漁業、漁師さんたちがもう競争力がないということで、割当を大きな漁業会社に売ってしまっているわけなんです。これは国内大手あるいは国際的な多国籍大手のようなところに売ってしまっているわけなんです。ですから、結局漁業が減って、メリットが生まれるということになっていないわけでありまして、むしろより漁業がどんどん高まっていく、積極的に大掛かりに行われて、それが集約的に行われるようになって、小規模の漁業関係者が追われている、あるいは撤退しているということになっているわけであります。

 

 

 

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